※この記事は興味本位から調べて書いたものであり、恐らく正確性を欠いています。
ある機械や設備の運転状態を赤色と緑色の2色の表示灯で表すとき、緑を運転とするか、赤を運転とするかは、産業分野によって議論が分かれる。機械オペレーターは緑が運転と答えるだろうし、電気技術者は赤が運転と答える。
トップの写真は動力電源盤で、赤ランプが運転、緑ランプが停止を示している。次の写真はIBMシステム/370コンピューターの操作盤で、POWER OFF(電源遮断)が赤色、POWER ON(電源投入)は白色のボタンが付いている。

電気技術者の私にとって赤が運転・入、緑が停止・切として完全に意識に定着しているが、機械オペレーターや一般の人にとっては交通信号と同じ要領で、緑が運転(オン)、赤が停止(オフ、スリープなど)と考えるだろう。この一種の混乱は戦前から既に起きていた様子が見られる。
油入開閉器の開閉及表示燈の色別と鐵道の轉轍器の開閉及信号燈の色別とを混同してはならぬ。即ち電氣の方では開閉器を開くと言ふのは電氣の通らぬ樣にする事であり、赤色の表示燈のついて居るのは電氣が通って居って人体に對しての危險信號である。斯くの如く電氣の流通と列車の通行とは其信號がアベコベであるから間違ってはならぬ。(資料1)
電気分野の色別は長らくの間、1946年に制定された日本規格『JES 電気 0601(電気装置のトッテの操作と状態の表示)』(後にJIS C 0601となり、1998年にIEC整合化のためJIS C 0447, 0448の制定とともに廃止)を根拠としてきた。この規格では次のような規定があった。
2条 操作と表示の種類 トッテの操作方向・トッテが2つある場合(組になっているもの。例えば1つが切り、1つが入れに使うもの)の配置・操作の仕方を示す色分け、ならびに、状態を表示する表示灯又は表示部の色分け・光度・音量・面積・数・配置は表に示す種類とする。
この条文では消極的方向への操作と積極的方向への操作の2種類に分けている。遮断器の操作レバーは左が切りで右が入り、縦方向のブレーカーは下が切りで上が入り、ランプは緑が切りで赤が入りとなっているのは、80年前に制定された標準化規格が元になっているわけだ。ただし、後継規格の JIS C 0448 ではこのような色別は廃止され、赤色は危険、非常、緑色は安全、正常であることとし、装置の状態としての意味付けはないとした。
一方、民間の業界団体である日本電機工業会が1956年に定めた『JEM 1100 電動機制御用操作スイッチのボタンの色別、文字ならびに配列』では「停止、急停止または非常停止に赤を使用する」と規定し、JIS規格(電気)と矛盾していた。この内容は2023年にJIS B 9960-32へ移行した。そこでは、
非常停止及び非常遮断用アクチュエータには,赤を用いなければならない。停止(オフ)用アクチュエータの色は,黒,灰色,又は白とし,黒を最優先する。緑を停止に用いてはならない。赤は,停止に用いてもよいが,非常用操作機器の近くでは用いないことが望ましい。
となった。なお、ランプの色についてはJIS C 0448とほぼ同じ規定が書かれている。
この混乱を避けるべく、中央制御室などの中央監視設備では起動中を赤色系統、停止中を灰色にすることを提案する意見がある。
連続操業プラントにおいてはポンプや電動機は運転しているのが通常であって停止すると異常となることが多いため、グラフィック画面においても緑を運転中、赤を停止中とする考え方が広まったものと思われる。(中略)ポンプや電動機は運転中が正常の場合も停止中が正常である場合も共に存在し得るため、緑を運転中、赤を停止中とする考え方にも問題があることは明らかである。ポンプや電動機の起動中および停止中の色には赤や緑を用いずに、起動中は Active であることを示すマゼンタやオレンジなどを、停止中は Inactive であることを示すグレーなどを使用することとして、赤はアラーム状態を示す色としてのみ用いるべきであると考える。この考え方は欧米の文献でも推奨されている。(資料2)
結局、発送電設備と工場設備の2グループだけで考えれば、赤が注意、緑が安全と捉えるだけで解決する話だ。問題はこの2グループの法則を電気と機械の切り分けが難しい負荷設備に持ち込んだことだ。電機メーカーは通電中危険であることを示す赤ランプを入りとするし、機械メーカーは正常運転であることを示す緑ランプを入りとする。ここでユーザーに混乱をもたらす。
私がビル管理者として働いていたとき、この季節になるとテナントに新入社員が入って、この事情を知らない人から空調が効かないという問合せが入ることがあった。現地を見に行くとスイッチのランプは全て緑(切)になってて、その人は「逆だと思っていました」と。ランプに入切の文字を入れてくれれば確実なんだがな。スイッチのデザインをシンプルにしたいというのは分かるけど。

画像はパナソニック コスモシリーズワイド21のスイッチ。
参考資料
- 『電気作業安全心得 : 電気作業安全心得編纂委員会制定』52頁、電気協会、1931年。
- 馬場 一嘉『プラント運転制御システムにおけるグラフィック画面設計に関する研究』奈良先端科学技術大学院大学、2011年 https://naist.repo.nii.ac.jp
