映画『夢』(黒澤明 / 1990年) 感想
20年以上前、子どもの頃にこの映画をテレビかビデオで見た記憶がある。この原体験は自分に大きな影響を与えてきたんじゃないかと思う。最近、Prime会員特典で無料で見れることを知って、改めて鑑賞した。
カメラは第三者目線なんだけども、主人公はあまり多くを語らず、あたかも感覚を共有しているような錯覚を覚える。主人公の動きを見つつその視線を共有できるカメラアングルが良い。
最初の夢。幼少期はこれが狐の嫁入りのイメージとして根強く残っていて、小学生の半ばくらいまでは半々で信じていたと思う。最後、主人公が狐の嫁入り行列を見てしまって謝りに行く場面。母から「こんな天気の日にはきっと虹が出る。狐の家はその虹の下よ。」と言われて、いやそんなのあるわけが、と思うんだけど、次のシーンで花畑、野原、山間と天気雨の中で架かる虹を見て、その幻想的な光景に神妙な気持ちになる。
第2の夢。幼少期の私は「木霊」という言葉を知らずに、自然(木)も生き物として大事に扱えという戒めに見えたと思う。今見直すと、その映像の見た目だけでなく、そこに込められたメッセージを読み取れる気がする。主人公が桃畑(景色)を失って悲しみに暮れていたところ、最後の舞を見て桃の花が咲き乱れていた美しい光景を思い出し、ふと気が付くと桃畑を失った景色に戻っている。残った一本の桃の若木を見て、かつての光景はもう戻ってこないものだと悟りつつ、これを胸に今後を生きていこう。こういう部分は大人になってからじゃないと理解できないなぁ。
第3・4の夢はカメラワークと役者の演技力が見物だった。映画の中に引き込む力がすごい。後半は昔の記憶にはあまり印象に残らなかった。
全体的には人間の自然に対する向き合い方について描かれているものが多い。どの話も、少し非現実的な要素があるのに、映像・音響・台詞を組み合わせて生々しい現実さを伴わせるところが巧みだった。