FC互換機用ソフト『8BIT MUSIC POWER ENCORE』を分解する
→ Amazon | 【コロンバスサークル】(FC/FC互換機用)8BIT MUSIC POWER ENCORE
2024年6月発売。2部作になると思われた7年ぶりのシリーズ3作目。ファミコン互換機用ソフトウェアではあるけど、ゲームソフトというよりは、実機で再生するゲームカセット形態のチップチューン・アルバムというのが正しい。
前作 FINAL はゲーム音楽らしい曲が多くて、特に I am seeing things (Matsumae, Manami)やREAL ADVENTURE (TECHNOuchi)は懐かしささえ覚えた。今作はゲーム音楽という枠を超えて、ファミコン音源を使った「聴かせる音楽」だった。電子音楽、ダンスミュージック、テクノが入ったような。高速アルペジオが入るとC64やAmigaの曲を思い出す。
ところで、本作(シリーズ過去作も含む)はコロンバスサークルという会社から発売されている。取説の注意事項によれば、この会社が販売する『8ビットコンパクト』などファミコン互換機でのみ動作が保証されている。箱の表紙には「FC/FC互換機用」、裏には小文字で「FC互換機については純正FCと音が異なる場合がございます。予めご了承ください。」と書かれていて、任天堂純正ファミコンで動作検証したのか、していないのか、よく分からない書き方をしている。
非ライセンス品は必ずしもそれが悪いわけではないが、中身は気になるというもの。早速分解してみる。
初代の黒いカセットは挿入面にバリがあったり、基板にジャンパ線が張ってあったりと、ビックリするような質の悪さだったが、今作はFINALと同じく見た目の質感は悪くない。
CG ROM、PG ROMともにSST社製のCMOSフラッシュメモリー SST39VF040が使われている。ファミコンからROMカセットに供給される電源はTTLレベルと同じ5Vなので、これをCMOSレベルの3.3Vに落とすために電圧レギュレーター FS8855 が使われている。その他の入出力ピンはカードエッジ端子と直結のように見える。
SST39VF040のデータシートを読むと、各ピンのグラウンドに対する最大DC電圧はVDD±0.5V(瞬時±1.0V)となっていて、動作電圧は3.3Vが標準なので、入力電圧は最大3.8V(瞬時4.3V)まで許容されていることになる。一方、赤白ファミコンは設計・製造時期を考えれば当然TTLレベル (5V)で入出力を駆動しているわけで、理論上はCMOSフラッシュメモリーの入力ピンにVDDを超える電圧が掛かることになる。これはVDDとVSS間が導通状態になるラッチアップ現象を引き起こし、過電流で素子や配線が焼損することになる。カセットが無事でも、ファミコン本体の基板が損傷する可能性がある。
Amazonに英語で書かれたレビューには、これを問題点として挙げ、純正のファミコンで使用すると本体やカセットを壊す危険があることを指摘する人がいる。また、ファミコン本体側にある74□139というICにロットによって異なる仕様のものが使われており、ROMSEL信号のレイテンシーの違いから、ゲームプログラムの実行に問題が生じるとのこと。
後者の事象について、技術的な詳しい話はとらぷ氏が次のページに書いている。
web.archive.org/web/20190803210225/http://vaot.mydns.jp:80/fc/fcrsm2.htm
74HC139か74LS139かに関わらず、赤白ファミコンの前期型は動かない可能性が高いようだ。しかし、私が持っている前期型 (HVC-CPU-07, 2A03E, MB74LS139)では動くので、結局はロットによるとしか言いようがないか。
なお、アドレスピンの電圧はカセット未接続時に実測4.03Vだった。動作時はもう少し下がるだろうから、入力電圧は許容範囲の上限に近いのかもしれない。たまたま実害が出ないレベルに収まっているというだけで、DC電源電圧の誤差が上に触れたら危険になる。実機でプレイするなら、それを承知の上で試す覚悟が必要だ。