IBM DOS/V上のIBMMKK(IBM連文節変換プログラム、IBM Multi-phrase Kana-to-Kanji conversion)とWin3.1上においてMS IMEを使った日本語入力について。
○IBMMKK(IBM連文節変換プログラム)の導入方法
[A] IBM DOS バージョンJ5.0/V以前の場合
DOS J5.02/Vの場合はDOSのセットアップ時にMKKを一緒に導入するかどうかを選択できます。導入しなかった場合やDOS J5.00/V以前の場合は、「連文節変換プログラム 導入ディスケット」をAドライブにセットして、「A:\INSTALL」を実行します。連文節変換プログラムの導入プログラムが起動します。
導入するファイルはDOS/V用とJ-DOS用で分かれています。J-DOSを使用している場合は注意が必要です。(J-DOSにおける使用方法はここでは触れません。マニュアルを参照して下さい。)
[B] IBM PC DOS バージョンJ6.1/V以降の場合
DOSのセットアップ時にMKKを一緒に導入するかどうかを選択できます。セットアップ時に導入しなかった場合は、DOSのセットアップディスク1をドライブにセットして「A:\SETUP /E」を実行し、オプション・ツールを導入します。
PC DOS J7.0/Vでは次のファイルがハードディスクに複写されます。
| ファイル | 機能・役割 |
| IBMMKKV.EXE | DOS/V用連文節変換プログラム |
| SETUPMKKV.EXE | カストマイズユーティリティー |
| USERDICT.EXE | 個人別辞書ユーティリティー |
| $IBMBASE.DCT | ベース辞書(システム辞書) |
| $IBMCNNC.DCT | 国名コード辞書 |
| IBMZIPC2.DCT | 郵便番号辞書 |
| $USRDICT.DCT | 個人別辞書 |
| $FZKMKJL.DCT | 付属語学習辞書 |
| MULTDICT.PRO | マルチ辞書用プロファイル |
○IBMMKKをDOSに組み込む
DOSには標準では日本語入力システムが備わっていません。DOS/Vには標準で$IAS.SYSが組み込まれているためひらがな・カタカナの入力はできますが、漢字に変換することはできません。漢字変換を利用するにはIAS(Input Assist Subsystem)インターフェースに対応したかな漢字変換プログラムを導入してCONFIG.SYSに登録する必要があります。IASに対応したかな漢字変換プログラムにはIBMMKKの他にATOKやWXなどがあります。
IBMMKKの場合は上記の導入手順でファイルの複写からCONFIG.SYSの設定まで自動で行われます。しかし、CONFIG.SYSの各設定項目について知っておくと、より理解が深まることでしょう。次にCONFIG.SYSに記述するデバイスドライバーのスイッチについて説明します。
| $IAS.SYS | かな漢字入力サポート(入力サブシステム) |
| /X=[0|1] | EMSメモリー使用(1) |
| /G=[0|1] | スポット変換(0) |
| /R=[0|1] | ローマ字モード(0) |
| /K=[JP|US|AX|J3] | キーボードタイプ(JP) [J5.02/V以降] |
| /INI=[PATH] | DOS/V設定情報(DOSV.INI)のファイルパス [J6.1/V以降] |
| IBMMKKV.EXE | DOS/V用IBM連文節変換プログラム本体 |
| /T | 定位置変換 or スポット変換 |
| /K | 定位置変換時の確定を[Enter]キーとする |
| /M=[J|F|S|I|B] | 変換モードの指定(J=自動変換、F=複合語変換、 S=連文節先読み変換、 I=連文節一括変換、 B=単文節変換)(S) |
| /I | IBM漢字番号 or JIS区点 |
| /L | 学習情報を保存する |
| /R | RAM辞書を使用する |
| /S=fn | 辞書プロファイルのファイルパス |
| /U=fn | 個人別辞書のファイルパス [J5.02/V以降] |
| /Z=n | 自動全候補の回数 [J5.02/V以降] |
| /C | 自動文節切り直し機能を使用する [J5.02/V以降] |
| /J=[78|83|90] | JIS区点番号セットの指定(90) [J6.1/V以降] |
- CONFIG.SYSはテキストファイルであり、DOSのシステムがあるドライブのルートディレクトリにあります。これを編集するにはEDLINやEエディターなどのテキストエディターを使います。
- DOS J5.00/V以前の場合は連文節変換プログラム本体のファイル名は IBMMKK.EXE (J-DOS用と同じ)になっています。
- IBMMKKVはEXEファイルですが、デバイスドライバーとして組み込む必要があります。
- PC DOS J6.1/V以降の場合は、キーボードの設定はSETUPVコマンド、CONFIG.SYS内のIBMMKK.EXEに対する設定はSETUPMKKコマンドで行えます。

CONFIG.SYSへの設定例。
DEVICEHIGH=C:\DOS\$IAESKK.SYS
INSTALL=C:\DOS\IBMMKKV.EXE /M=S /L /R
$IAESKK.SYSは単漢字変換のデバイスドライバーで、IBMMKKには必須ではありません。単漢字変換を使わないのなら取り外しても問題ありません。
かな漢字変換ドライバーは結構なメモリーを消費します。IBMMKKはEMSメモリーに対応しているので、最低1MBのEMSメモリーを確保しておくと基本メモリーをそれほど圧迫せずに済みます。メモリー割り当ての設定はCONFIG.SYSに対して次のように記述します。
DEVICE=C:\DOS\HIMEM.SYS /INT15=1000
DEVICE=C:\DOS\EMM386.EXE 1024 RAM
DOS=HIGH,UMB
HIMEM.SYS行の/INT15スイッチは、RAM辞書のためのINT15拡張メモリーを確保します。EMM386.EXEの行について、1024 はEMSメモリーを1MB確保するように指定しています。RAM はUMBメモリーを使用するよう指定しています。メモリーマネージャーはフォントドライバー($FONT.SYS)の後に読み込む必要があります。ただし、PC DOS J6.1/V以降ではHIMEM.SYSの後に$FONT.SYSを組み込むことができます。
○キーボードタイプとIBMMKKの操作方法について
当時はキーボード配列が一つに統一されておらず、機種や用途に応じて様々な種類のキーボードがありました。IBM DOSは次のキーボードタイプに対応しています。(DOS J5.0/V以前ではJPのみ対応。)
| タイプ | 小分類 | IBM製品型名 | 備考 |
|---|---|---|---|
| JP | OADG106 | 5576-A01 | OADGリファレンスモデル。現在の日本語106キーボードと同等。 |
| 5576-B01 | A01型のコストダウンモデル。配列は同じ。 | ||
| 5576-C01 | A01型にトラックポイントが付いた。配列は同じ。 | ||
| PS/55 | 5576-002 | PS/55の標準的なキーボード。PS/2キーボードを基にSAAに準拠。 | |
| 5576-003 | 5576-002からテンキー部分を省略した小型キーボード。 | ||
| 5535-S | DOS/Vを標準OSとした最初のPC。ラップトップ型。 | ||
| 5523 | PS/55note。配列は5535-S準拠ながら表記がOADG仕様になった。 | ||
| 5550 | 5576-001 | マルチステーション5550用の5556 I型鍵盤と操作上の互換性がある。 | |
| AX | . | . | AX規格に準拠したPCのキーボード。 |
| US | 101 | 1391401 | IBM PS/2標準の拡張キーボード。通称 Model M。 |
| J-3100 | . | . | 東芝J-3100ラップトップ機のキーボード。 |
次は日本語106キーボードと英語101キーボードにおけるIBMMKKの操作キー割り当て一覧です。
| 機能/キーボードタイプ | 日本語106(A01型) | 米国英語(101型) |
|---|---|---|
| 変換・次候補 | 変換 | Space |
| 前候補・カタカナ変換 | Shift + 変換 | Shift + Space |
| 全候補 | Alt + 変換 | Shift + Ctrl + Space |
| 無変換 | 無変換 | Ctrl + Space |
| 文節を読みに戻す | Alt + 無変換 | Shift + F3 |
| 単漢字変換 | Ctrl + 無変換 | Ctrl + F3 |
| 英数モード | 英数 | Shift + Caps Lock |
| Caps Lock | Shift + 英数 | Caps Lock |
| 漢字番号入力 | Alt + 英数 | Alt + Shift + Caps Lock |
| 取り消し | ESC | |
| 確定・実行 | Enter | |
| 全候補・単漢の前候補 | Page Up | |
| 全候補・単漢の次候補 | Page Down | |
| 文字単位カーソル移動 | ←↑→↓ | |
| 文節単位カーソル移動 | Shift + ←↑→↓ | |
| データ先頭 | Home | |
| データ末尾 | End | |
| 半角・全角モード | 半角/全角 | Ctrl + ` |
| 漢字モード | Alt + 半角/全角 | Alt + ` |
| ローマかな | Alt + ひらがな | Alt + Ctrl + Caps Lock |
| 漢字制御メニュー | Ctrl + 半角/全角 | (該当なし) |
英語キーボードではかな文字は以下のように割り当てられます。
(出典: DOS J5.0/V 入門書 追加情報 P.5)
IBMMKKではローマ字入力においても記号キーはカナ入力扱いになります。つまり、日本語106キーボードの表記通りに文字が入力されます。例えば、長音(ー)を入力するには[¥]キーを、中点(・)を入力するには[Shift]+[/]キーを押します。これは現在一般的になっている入力方式とは異なる部分です。
DOSの起動時点では半角英数入力になっています。106キーボードで漢字入力モードに切り替えるには[Alt]+[半角/全角]キーを押します。制御メニュー(画面最下行)に「漢字」の表示が出ます。「R」とあればローマ字入力、なければカナ入力に設定されています。スポット変換の場合は現在のカーソル位置に入力文字列を表示し、定位置変換の場合は制御メニューに入力・変換中の文字列を表示します。
次はEエディターにおける漢字変換中のスクリーンショットです。
変換候補が複数ある場合は、何回か[変換]キーを押すか、[Alt]+[変換]キーを押すと全ての候補を表示します。全候補の表示は[PageUp][PageDown]キーで切り替えます。
○日本語MS-Windows 3.1上における日本語入力
Windows 3.1には日本語入力システムとして標準で MS IME for Windows が搭載されています。IBM版の日本語MS-Windows V3.1では、MS IMEに加えてWindows上でIASインターフェース準拠のDOS用かな漢字変換プログラムが使えますが、使い勝手の面であまりお勧めできません。辞書ファイルを共有する必要が無ければ、Windows用の日本語入力システムを使いましょう。使用する日本語入力システムはWindowsセットアップより変更できます。
MS IMEで使用するファイルは次の通りです。
| ファイル | 機能・役割 |
|---|---|
| MSIME.EXE | MS IMEプログラム本体 |
| MSIMEFEP.DLL | MS IMEインターフェース |
| MSIMEKNL.DLL | 漢字変換 |
| MSIMELIB.DLL | 各種ライブラリ |
| MSIMER.DIC | 国語辞書 |
| MSIMED.SYS | 付属語辞書 |
| MSIME.DIC | ユーザー辞書 |
| MSIMEUTY.EXE | 環境設定プログラム |
| MSIME.INI | 設定情報ファイル |
| MSIME.HLP | ヘルプファイル |
次は日本語106キーボードと英語101キーボードにおけるMS IMEの操作キー割り当て一覧です。
| 機能/キーボードタイプ | 日本語106(A01型) | 米国英語(101型) |
|---|---|---|
| 起動トグル | Alt + 半角/全角 | Alt + ` |
| 全確定 | Enter | Shift + Space |
| 1文字削除 | Delete | Shift + Ctrl + Space |
| 前文字削除 | Backspace | Ctrl + Space |
| 文字カーソルを先頭に移動 | Home | |
| 文字カーソルを末尾に移動 | End | |
| 文字カーソルを文字単位で移動 | ←→ | |
| 文節文字戻し | Esc | |
| 前候補を表示 | BackSpace | |
| 次候補を表示 | 変換 | Space |
| かなトグル変換 | 無変換 | (該当なし) |
| 対象文節の末尾を縮める | Shift + ← | |
| 対象文節の末尾を伸ばす | Shift + → | |
| 候補を表示 | ↓ | |
| 部首による変換 | F5 | |
| 全角ひらがなへの変換 | F6 | |
| 全角カタカナへの変換 | F7 | |
| 半角への変換 | F8 | |
| 全角英数への変換 | F9 | |
○Windowsアプリケーションで日本語入力システムを使用する
日本語入力モードのオン・オフを切り替えるには[漢字]キーを押します。[漢字]キーは106キーボードでは[Alt]+[半角/全角]キーにあたります。詳しい操作方法はマニュアルを参照して下さい。
次はMicrosoft Word for Windows 5.0における漢字変換中のスクリーンショットです。
変換候補には数字が表示されませんが、数字キーで候補を選択することもできます。
プログラムマネージャーの 日本語入力 グループから MS IMEの設定 アイコンをダブルクリックして開くと、各種動作を設定できます。
MS IMEは他の日本語入力ソフトと比べると機能・変換精度とも劣っています。もし手に入るのならATOK for Windowsを導入することをお勧めします。MS IMEはすべてのファイルが1枚のFDに収まる程度の容量ですが、ATOK8 for Windowsでは辞書ファイルだけでFD3枚分もあります。当時の雑誌のレビューでも、いくつかの日本語入力ソフトの中でトップの高評価を得ています。
○参考文献
- IBMパーソナルシステム/55 IBM DOS バージョン J5.0, J5.0/V 連文節変換プログラム ユーザーズ・ガイド、日本アイ・ビー・エム株式会社、1991年
- IBMパーソナルシステム/55 IBM DOS バージョンJ5.0/V 入門書(カンタンDOS)追加情報および導入ガイド(英文)、日本アイ・ビー・エム株式会社、1992年
- PC DOS J6.1/V カンタンDOS、日本アイ・ビー・エム株式会社、1993年
- PC DOS J7.0/V コマンド解説書およびメッセージ集、日本アイ・ビー・エム株式会社、1995年
- PC DOS 2000 日本語版 ユーザーズ・ガイド、日本アイ・ビー・エム株式会社、1995年
- Microsoft Windows Operating System Version 3.1 日本語入力ガイド <MS IME for Windows>、マイクロソフト株式会社、1993年
[EOF]