Image: 電気事業法における100V, 200V標準電圧と自家用電気工作物の良否基準を考える

電気主任技術者は自家用電気工作物の保安業務として、施設に設置されているキュービクルなどの受電設備の計器を見て電圧などの数値を記録し、設置者に報告する。ただ、正常と判断する基準について「いつも大体この数字だから正常」と説明するよりは、何かしら信頼性のある根拠があった方が設置者を説得しやすいし、何より判断基準を明確にすることで点検者の誰もがいつ時も同じ目線で判断を下すことができる。

電流や電力はその時の需要によって変化するから実績の比較で良いとして、電圧くらいは何かしら良否の判断基準を設けたい。しかし、キュービクルの取説ではどんな使用環境にも適用できるような大まかな点検項目しか示されていないので、別の所から根拠を探すしかない。

現行法が定める電力品質基準

電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)は電気使用者の利益を保護することを目的とする事業規制と、公共の安全を確保することを目的とする保安規制を盛り込んでいる。その中に次のような条文がある。

第二十六条(電圧及び周波数) 一般送配電事業者は、その供給する電気の電圧及び周波数の値を経済産業省令で定める値に維持するように努めなければならない。

2 経済産業大臣は、一般送配電事業者の供給する電気の電圧又は周波数の値が前項の経済産業省令で定める値に維持されていないため、電気の使用者の利益を阻害していると認めるときは、一般送配電事業者に対し、その値を維持するため電気工作物の修理又は改造、電気工作物の運用の方法の改善その他の必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

3 一般送配電事業者は、経済産業省令で定めるところにより、その供給する電気の電圧及び周波数を測定し、その結果を記録し、これを保存しなければならない。

ここでいう経済産業省令とは、電気事業法施行規則(平成七年通商産業省令第七十七号)のことで、ここで維持すべき電圧として次のように示されている。

第三十八条 法第二十六条第一項(法第二十七条の二十六第一項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の経済産業省令で定める電圧の値は、その電気を供給する場所において次の表の上欄に掲げる標準電圧に応じて、それぞれ同表の下欄に掲げるとおりとする。

標準電圧 維持すべき値
百ボルト 百一ボルトの上下六ボルトを超えない値
二百ボルト 二百二ボルトの上下二十ボルトを超えない値

「電気を供給する場所」とは需要家の末端ではなく受電点のこと。標準電圧100Vは101±6V、200Vの場合は202V±20Vを超えない値を維持すべきと定めている。これは電気事業法による事業規制であり、ここで維持すべき義務が課されているのは、公益性が求められる「一般送配電事業者」(中部電力パワーグリッドなど広範に電気を供給する事業者)である。施設やビル内の電気設備は需要家の内側だけで使用する自家用電気工作物なのでこの法は該当しないが、設置者が維持すべき基準の根拠としては利用できそうだ。

電力品質基準の制定過程

ただ、この基準がどのようにして制定されたのか、その過程が気になったので調べてみた。現行の電気事業法は昭和40年(1965年)に施行され、その時点でこの条文は既にあったので、その頃の文献をあさればその辺の事情が書かれていそうだ。

標準電圧の審議過程については、電氣學會雜誌 1966年86巻930号 p.351-356 藤波 恒雄『新電気事業法について』に記述がある。

電圧,周波数の具体的数値および測定方法は通商産業省令に定められており,電圧は100V供給の場合は101V±6V,200V供給の場合に202V±20V,周波数はその地区の標準周波数(すなわち,50c/sまたは60c/s)に保つよう努力しなければならないこととなったが,特に電圧の幅については,電気事業者から現状では少しきびしすぎるという意見,需要家から幅をさらにせばめるほか,高圧および特別高圧についても幅を定めてほしい旨の意見などがあり,種々検討された。機器の能力などに及ぼす影響,技術的維持方法の確立,料金その他経済的なバランス,海外との比較(100Vについては変動幅が5%ぐらいが多い)などを総合的に判断して,一挙に高水準に定めることは設備の現状から実効性に問題があるので,現時点での妥当な値として上述のものが定められた。なお,これら電圧および周波数の維持に関する規定は昭和7年制定の旧電気事業法にほぼ同様の規定があったが,戦中戦後の荒廃した設備については事実上適用することが無理であり,旧公益事業令移行時において削除された経緯がある。

標準電圧の基準は技術的な根拠に偏らない、幅広い観点から総合して決められたものだと分かった。

しかも、電圧の維持に関する規定は電気事業法制定当初からあっただけでなく、旧電気事業法が制定されるより前にも存在していた。1902年(明治35年)に公布された電気事業取締規則(明治三十五年逓信省令第三十六号)には次のようにある。

第八十五條 第一條第一號ノ電氣供給事業者ハ需用者ノ需メニ應スル電氣供給時間中充分ニ送電シ契約セル一定電壓又ハ一定電流ヲシテ百分ノ四以上の變動ヲ起サシメス又電燈需用者ニ供給スル場合ハ其ノ光力ニ不定ヲ顯ササル樣維持スヘシ但シ技術上已ムヲ得サル場合ハ此ノ限ニ在ラス

100分の4以上の電圧変動を起こさないようにするということは、例えば100Vなら100V±4V、200Vなら200V±8Vということか。現行の電気事業法よりも厳しい基準だが、当時の電力事情を予想すると尚のこと適用は困難な気がする。先の引用文にもあったように、この電圧維持の規定は戦後に公益事業令へ移行した際に削除された。それが1965年の電気事業法で復活することになった経緯や時代背景は、電気事業法成立当時の解説書を読むと見えてくる。以下、通商産業省公益事業局(編)『電気事業法の解説』(1964年)28-29頁より。

電灯需要家端子電圧は、戦前には基準電圧プラス・マイナス四%に保持されていたが、戦中、戦後の混乱期においては規定値の保持が困難となり需要家に対し多くの迷惑を与えていた。しかし、その後、高圧配電線の六千ボルト化、低圧配電線における単相三線式の拡充、電線の張り替え、饋電線の新設、低圧ネットワーク方式の採用等により年々電圧状況は改善されてきた。昭和三十九年度においては、需要家端子電圧が一○一ボルト・プラス・マイナス八%の範囲内に収まるものが九○%以上に達しており、将来すべての需要家がプラス・マイナス六%の範囲内に収まるよう計画が進められている。(中略)最近、電気の質の改善が社会的要請として強まってきており、電力需給が安定してきた今日では供給電力の質の向上への努力はさらに必要である。

戦後間もなくは電力供給不足に悩まされ、質よりも量の確保が優先されていたことはやむを得なかった。その後の電源開発で電力需給が安定すると、質の重要度が増し、地域独占の電気事業において需要家の利益を保護することが必要と考えられていた。

現行の電気事業法施行規則にある電圧規定値は1965年に定められて以来変更されていないが、いち電力会社の例を挙げると、中部電力ミライズの基本契約要綱で定める標準設計基準にも、低圧電線路における電圧降下の限度としてそのまま使われている。ちなみに、この基本契約要綱には高圧 (6600V) についても限度基準があり、変圧器タップ切り替えの有無で200V(⇒±3%)または340V(⇒±5%)となっている。

電気用品の技術上の基準

負荷側についても動作電圧の基準があるにはある。経済産業省が公表している電気用品安全法の技術基準『電気用品の技術上の基準を定める省令の解釈について』(平成25年7月1日20130605商局第3号)において「電圧変動による運転性能」(1-(6))という項目があり、次のように記載されている。

平常温度試験の状態において、定格周波数に等しい周波数の定格電圧に等しい電圧を加えて連続して運転し、電圧を定格電圧に対して±10%変動させた場合に、支障なく運転が継続できること。

つまり、電気用品安全法の対象機器は、定格100Vであれば90Vから110Vの範囲で正常に動作することが求められる。ノートPCなどに付属するACアダプターは電気用品安全法でいうところの「直流電源装置」であるため、この基準を満たすことが求められる。一方で、デスクトップPCのように電気用品安全法対象外の機器もあるので、全ての機器がこの電圧変動に耐えられるよう設計されているわけではない。

実状に当てはめる

一般論で語れるほどの経験が無いので、あくまで私の身の回りの話に当てはめてみる。

まず、高圧受電の時点で±2%未満の変動は日常的に起こっている。平日か休日か、昼間か夜間か、またその日の天候で負荷は大きく変わり、負荷電流が大きければ電圧降下も大きくなる。送電会社の変電所では無停電でタップを変更できる変圧器が使われていて、負荷に応じて出力電圧を調整しているが、段階があるので調整の精度には限界がある。また、需要家内で使われている変圧器はタップ切り替えに停電を要するため、その時の状況に応じて都度タップを変更するのは難しい。

次に、変圧器自体も負荷が掛かると内部インピーダンスにより二次側の端子電圧が下がる。これは電灯負荷と動力負荷で違ってくるが、変圧器二次側が定格105Vの電灯に限っていえば、103Vから104Vで変動する程度で、せいぜい-1%か(変圧器の定格容量限界まで負荷がかかればもっと下がるかもしれないが、そう言う事例は見たことない)。これまでの電圧降下の数字と合わせて、最悪-3%として、変圧器二次側の定格が105Vであれば105V × 97% = 101.9V。実測では103Vを下回ることは殆どないが、夜間に高圧受電が3%弱下がって101V台を記録したことはある。

構内変圧器から末端までの電圧降下は、内線規定で最大でも7%(電線こう長200m超の場合)まで許容されている。これまでの電圧降下の数字と合わせて、最悪で-10%となり、変圧器二次側の定格が105Vであれば、末端は105V × 90% = 94.5V。電気事業法における供給電圧の下限 95V を下回っている。末端であっても95Vを下回るとさすがに低い印象があるが、電気用品安全法の基準を満たす機器であれば、一応正常に動作するはずである。

変圧器の端子電圧について基準値を考える

上記の実状を踏まえると、変圧器の端子電圧は受電電圧の変動範囲(±3%)と計器誤差(±1%から±2%)を考慮しつつ、あとは末端までの電圧降下を考えて最低値をどこまで許容するかという話になる。105V基準で考えると、末端の下限を95Vとして、変圧器から末端までの電圧降下が7%とするなら、変圧器の端子電圧は102V以上は欲しいという計算になる。この辺りが落とし所か。動力はまた電圧変動と許容範囲が異なるので、改めて考える必要がありそうだ。

参考文献


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