電気主任技術者制度の歴史は古く、成立は明治時代まで遡るが、電気工事士についてはその前身の電気工事人制度が昭和初期に省令として定められたものの、戦後に一度廃止され、法律として成立した時期は高度経済成長期まで下る。

電気主任技術者制度の変遷

電気工事人制度が省令で定められる(昭和10年)

昭和7年(1932年)に電気事業法が全面改正されたが、その内容は設置者に対する保安規制が主であり、工事作業そのものを取り締まる法ではなかった。この時期に電気事業法が改正された背景には、都市圏を中心に複数の電気供給会社間で需要家獲得競争が激化し、非合理的な供給設備の二重投資や電気料金値下げ競争といった様々な弊害が生じたため、電気供給事業を将来的には国営事業として買収することも視野に公益事業として位置づける必要があった。

3年後の昭和10年、電気工事の欠陥による事故発生の防止の観点から、省令で電気工事従事者の免許制度と電気用品取締規則への準拠義務などが定められた。電気工事人は甲種と乙種の区分があり、高圧(直流600V超、交流300V超)と一定規模以上の工事、ネオン管工事は甲種を必要とする。

電気工事人取締規則(逓信省令第31号、昭和10年9月30日)

第一條 屋内及家屋ノ外面ニ於ケル電氣工事(看板、廣告塔等ノ電氣工事ヲ含ム)ニ從事セントスル者ハ本令ノ定ムル所ニ依リ逓信局長ノ免許ヲ受クベシ

第十條 甲種免許ヲ受ケタル電氣工事人ニ非ザレバ左ノ工事ヲ爲スコトヲ得ズ
一 高壓電氣工事及「ネオン」管燈工事
二 電氣工作物規程本則第百二十七條乃至第百三十條ニ規程スル電氣工事
三 電纜工事、金屬管工事又ハ金屬線樋工事ニシテ長サ十米ヲ超ユルモノ
四 電燈ノ受口五十筒、家庭用電氣器具ノ受口十箇又ハ電動機其ノ他ノ電力装置三箇以上ヲ施設スル場所ニ於ケル電氣工事

電気工事人制度の廃止(昭和22年)

終戦後の昭和22年、電気事業法施行規則外7件の一部改正等(商工省令第39号、昭和22年12月29日公布)第6条の規定により、電気工事人取締規則は根拠法がない上に職業選択の自由に反するとして廃止された。これより、昭和35年に電気工事士法が成立するまで全ての電気工事が無免許でできる事態になった。

電気工事士法が成立(昭和35年)

一般家庭の電化が進み、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が「三種の神器」として宣伝され家電機器の普及が始まったこの頃。電気工事の欠陥によるとみられる火災が相次いだため、電気工事従事者に一定の技能水準を定める必要が生じた。

前年に省令で電気工事技術者検定規則が定められ、日本電気協会などによって任意資格検定が行われていたが、工事従事者の強制資格とするべく昭和35年8月1日に電気工事士法(法律第139号)が公布され、一般用電気工作物の工事には免許が必要になった。5年後の昭和40年に公布される電気事業法に盛り込む構想があったものの、当時はまだ法案成立時期の見通しが立っていなかったため、電気事業法とは別の法律として先に制定されるに至った。

経過措置として、旧電気工事人免許所持者は10年以上の実務経験または講習の受講によって電気工事士免状を取得できた。また、電気工事技術者検定の合格者は無条件で取得できた。

高圧電気工事技術者試験が発足(昭和37年)

廃止された旧電気工事人制度のうち低圧は電気工事士法で再び免許が義務づけられた一方、自家用や高圧の免許義務はまだなかった。日本電気協会は高圧電気工事技術者の試験制度を定め、試験合格者は所轄官庁の認定を以て低圧と100kW以下の高圧電気工作物の電気主任技術者になることができた。

電気工事士法はもともと一般低圧電気工作物の施工を行う者を対象とした免許制度であり、自家用施設など近年増加の著しい高圧電気工作物の施工を行う者に対する教育、技能の向上をはかるためにはやはり免許制度が必要と考えられるが、それがまだ立法されていない現状ではせめて任意制の高圧試験を行ってその技能の裏付けをすることにより、上記目的を達成したいと企図して本会は、新たに高圧電気工事技術者試験規程を定め、中央、地方の試験委員会を設けて実行にあたり、昭和37年11月18日全国9地区の地方電気協会の手によって第1回の試験を実施した。

自家用電気工作物施設規則第24条第1項ヘおよびトに規程する~として認定されるよう、昭和36年7月1日公局第539号通達による高圧試験としての指定方を通商産業省公益事業局長宛に申請したが、昭和37年12月19日付37公局第136号をもって正式に指定された。(文献2)

自家用電気工作物工事従事者の免許義務化(昭和62年)

昭和62年、高圧電気工事技術者に相当する免許制度が第一種電気工事士として電気工事士法(昭和62年9月1日法律第84号)に定められ、最大電力500kW未満の自家用電気工作物の工事に従事するには免許が必要になった。平成2年8月31日までの経過措置として、旧電気工事士や無資格者は一定期間以上の実務経験と講習の受講によって免状が与えられた。

自家用電気工作物の保安については、従来から、自家用電気工作物のような大型の電気設備の設置者であれば電気保安に関して十分な知識を有しており、設置者を規制すれば保安は確保し得るとの考え方から、工事施工段階を本法などによって規制することはせず、電気主任技術者の選任を義務づけるなどの電気事業法の規制に専ら係らしめてきた。しかしながら、最近の自家用電気工作物の電気保安の現状を見ると、工事段階における不備が主要な原因の一つとなって最大電力500kW未満の工作物を中心に事故が発生し、また、この大半が波及事故となって周辺の需要家に対し広域停電を誘発しており、特に、首都圏では停電5回ないし7回に1回はこの波及事故によるものとなっている。このことは、コンピュータ化、オフィスオートメーション化に代表される新たな高度情報化社会を迎え、極めて質の高い電力供給を必要とするわが国にとって重大な脅威となっている。(文献3, p.151)

発変電所や500kW以上の需要設備が電気工事士法の対象外となった理由は以下のように説明されている。

これらの除外される設備の設置者は電気保安に関する十分な知識を有しており、事実上、電気工事業者の選定も含めて、工事に関して十分的確に保安を確保できる体制にあると考えられ、事実、事故発生率も低いことから、本法の対象たる「自家用電気工作物」から除外しているものである。したがって、対象に含まれるのは、最大電力500kW未満の需要設備であり、概括的に言えば、中小ビルの設備などがこれに該当する。(文献3, p.154)

最大電力500kW以上の自家用電気工作物の電気工事では、送電線路及び保安通信設備に関する工事は存在したとしても例は多くなく、かつ、工事内容の質とその範囲が限定的であるため、本法で規制する自家用電気工作物から除いたものである。(文献3, p.295)

発変電所の工事は通常の需要設備の工事とは異なり専門性が高いため、各電力会社の社内規程で講習や技能の要件を定め、運用しているところが多い。500kW以上の需要設備については無資格でも工事できるが、現実問題として設置者(発注者)から施工計画書を求められた時に、資格一覧に第一種電気工事士がいないことは信用に影響が出る可能性がある。受電電力が大きいということは施設の規模が大きいということであり、事故発生時の構内への影響も大きく、設置者としても欠陥工事は避けたいと考えることから、求められる施工品質も自ずと高くなる。

参考文献

  1. 電力政策研究会(編)『電気事業法制史』, 電気新報社, 1965年.
  2. 日本電気協会総務部『<報告>高圧電気工事技術者試験を実施して』, 電気協会雑誌, Vol.473, 1963年, p.37.
  3. (社)日本電気協会『電気工事二法の解説』, オーム社, 1989年.

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