最近、ファミコン(実機)用のソフトを買った縁でファミコン本体の基板を眺めていて、CPUについて気になることがあった。

ファミコンのCPUはRP2A03という品番がついていて、これはリコーが製造したモステクノロジー社6502互換CPUと言われている。もう少し技術的な本では、「6502から10進数(BCD)演算機能を削除してサウンド機能を付加したもの」と説明されている。「なぜ10進数演算機能を削除したのか?」という点を掘り下げようとすると、これが海外の文献でしか触れられておらず、かなり闇深い。

それら海外の文献では、任天堂がモステクノロジーに特許使用料を払いたくなかったのだろうと推測している。ここでは文献の具体例を挙げないが、そのような文献はWebでも電子書籍でもいくつも出てくる。

詳しくはこうだ。NES(海外版ファミコン)発売当時、コモドール(モステクノロジーの親会社)のあるゲームハード開発者がRP2A03のガワを剥がしていくと、MOS 6502に似た回路を見つけたらしい。しかし、その回路の中で数本の配線だけがカットされている。そのカットされた部分というのが10進数演算機能に関わる回路である。モステクノロジーは元々の6502にある10進数演算機能について米国で特許を取得している。任天堂やリコーはこの特許の侵害を避けようと、機能を無効化したのではないか。

公然に知られている事実として、リコーは米ロックウェルから6502のライセンス (?) を取得したとある。この詳細に触れた文献は少ないが、よく調べてみると、リコーは1983年までにロックウェルとの技術交換で、CMOS版6502であるR65C02の生産技術を手に入れたというのが真相らしい。

電子海外技術導入調査総覧(富士経済、1984年8月)122ページのリコーの項目に以下のようにある。

  • ロックウェルが、マイクロコンピュータの技術(CMOS〔相補性金属酸化膜半導体〕構造の8ビットマイコン「R65Cシリーズ」とその周辺回路の生産技術)を提供。
  • ㈱リコーが、EPROMの技術(記憶容量32KビットのCMOS構造EPROM「RD5H32」と同64Kビットの「RD5H64」の生産技術)を提供。
  • 同社は、58年中に、8ビットマイコンのサンプルを出荷する予定。

セカンドソース契約は「技術交換」の一環として言及されることがあるが、今回の「技術交換」にどんな契約が含まれるか明確でない。そもそも、ロックウェル自身がMOS 6502のセカンドソースであり、そのロックウェルが又貸しのごとくリコーと6502互換CPUのセカンドソース契約するというのは妙な話じゃないか。いわゆるロンダリングという奴だ。また、ロックウェルのR65C02は機能がいくつか拡張されているようなのだが、RP2A03にはこれらの拡張は含まれておらず、非公開仕様やバグを含めて、あくまで6502相当らしい。リコー製の65C02は実在するようだが、これに拡張機能があったかどうかは分からない。

Electrical Design News 誌 Vol.31 (1986)によれば、リコーはロックウェル、NCR、WDCに並んで、コモドールの650Xあるいは65C0Xのセカンドソースとして挙げられている。私が見つけられる情報源はこれしかなかったが、リコーが6502または65C02の正規のセカンドソースだった可能性はワンチャンある。ただ、ファミコンに搭載されたRP2A03は製造コストの削減を追求した過程で、ライセンス料を負担せずに済むとして上記の方法をとったのかもしれない。

RP2A03のCPU部がMOS 6502のデッドコピーであるというのは、ありうるだろうか。

日本でIC回路のパターンを知的財産のごとく法的に保護する法律として、1985年に公布された「半導体集積回路の回路配置に関する法律」がある。これは、デッドコピー問題に関する日米政府間での対話や米国で1984年に制定された半導体チップ保護法 (Semiconductor Chip Protection Act of 1984) を受けて対応されたものである。6502はこれが施行されるより何年も前に市場に出回っているので、保護対象になりそうにない。

つまり、コモドール側の解析の話が本当なら、RP2A03のCPU部はMOS 6502の合法化デッドコピーという推測はありうる。

なお、スーファミに搭載された6502上位互換の65C816互換CPU (5A22) は、6502の開発者 Bill Mensch 曰く、リコーと正規に許諾契約した上で製造されたものらしい。

私は一方的に任天堂やリコーを責めるつもりはないが、日本語の文献ではここまで掘り下げている資料が見つからない。どうにもこの状況は、まるでやぶ蛇かのように、触れられていないのではないかと考えてしまう。

参考文献


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