IBM PC/ATの概要とハードウェア構成 [PC/AT +0]
メモリマップについて調べるついでにPC/ATについても調べてみた。
PC/AT互換機という言葉はよく見かけるが、肝心の本家IBM PC/AT(5170)についての情報はあまりなかったりする。
そこでPC/ATについての情報をここにまとめてみる。
○概要
PC/ATは1984年に米IBMが発売したパソコン。
正式名称はIBM Personal Computer/ATで、ATはAdvanced Technologyの略。機種番号は5170。
米IBMが発売したパソコンとしてはIBM PC(5150)とIBM PC/XT(5160)に次ぐ第2世代にあたるのだが、ラインナップ上ではこの2機種の上位機種ということになっている。
CPUに80286を採用したことにより処理能力が大幅に向上(IBMによれば従来機の3倍の性能)、メモリ空間も16MBに拡大した。また拡張スロットのデータバスを16ビットに拡張 (後にISAバスとなる。)
補助記憶装置は5.25インチディスケットドライブ1台で、新たに2HC(1.2MB)ディスケットをサポートした。旧機種で使われていた1D、2Dタイプディスケットは読み出しのみのサポート。Model 99は20MBハードディスクを搭載しているが、初期ロットは自動リトラクトの動作に不具合があったためデータ消失や故障が相次いだ。
表示機構(グラフィック)はMDA(テキスト80桁x25行/モノクロ)またはCGA(320x200/4色/グラフィック)と、旧機種からの変更はなく非常に貧弱だったが、まもなく640x350/64色中4色表示が可能なEGAが発売された。
オペレーティングシステムにはPC DOS 3.0とPC Xenixが用意された。PC DOS 3.0は新たに2HCディスケットやハードディスクのFAT16フォーマットをサポート。しかし互換性維持のため大きな変更はなく、PC/ATのハードウェアを有効活用できなかった。PC XenixはUNIX System IIIベースのマルチユーザー・マルチタスクOSで、80286のプロテクトモードや16MBのメモリ空間を活用できるというものだったが、出荷開始が85年初頭まで遅れた。
米IBMの日本法人である日本IBMは当初はIBM PC、PC/XT、PC/ATを販売せず、これらと互換性がない日本独自仕様のパソコン"マルチステーション5550"シリーズを開発・販売していた。後の1985年11月に外資系企業での利用を視野に日本国内でもPC/XTとPC/ATの販売を開始した。
○ハードウェア仕様(Model 68, 99)
PC/ATにはModel 68, 99, 239, 319, 339の5機種が存在するが、そのうちの初代に当たるModel 68とModel 99のスペックを下に示す。
同時期に国内標準となりつつあったNEC PC98の最上位機種 PC-9801F3 のスペックも並べてみた。
機種名 | IBM 5170 System Unit | NEC PC-9801F3(参考) | |
Model 68 | Model 99 | ||
発表日 | 1984年8月 | 1984年10月 | |
CPU | Intel 80286-6 6MHz | NEC uPD8086-2 8MHz | |
ROM | 64KB(POST/BIOS/BASIC) | 96KB(BIOS/BASIC) | |
標準搭載メモリ | 256KB | 512KB | 256KB |
最大搭載可能メモリ | 3.0MB | 640KB | |
キーボード | ATキーボード(84キー) | JIS C 6233配列準拠(100キー) | |
ディスケットドライブ | 5.25インチ 2HC(1.2MB) x 1台 | 5.25" 2DD(640KB) x 1台 | |
ハードディスクドライブ | - | 20MB x 1台 | 10MB x 1台 |
表示アダプター(オプション) | MDA(モノクロ)またはCGA(320x200/4色) | オンボード(640x400/8色) | |
フォントROM収録文字数 | 256字 x 2サイズ(EGA) | 243字(ANK) + 2965字(漢字) | |
外部インターフェイス | - | RS-232C、パラレル | RS-232C、パラレル、マウス |
拡張スロット | 6スロット/16ビットバス、2スロット/8ビットバス | 4スロット/16ビットバス | |
カレンダー時計(RTC) | 電池によるバックアップ | 電池によるバックアップ | |
電源 | AC 115V/230V 192W | AC 100V 115W | |
湿温度条件(使用時) | 15-32C、8-80% | 10-35C、20-80% | |
外形寸法(mm) | 540(W)x439(D)x173(H) | 420(W)x345(D)x150(H) | |
本体重量 | 16.8kg | 19.1kg | 10.9kg |
OS(オプション) | PC DOS 3.0、PC Xenix 1.0 | 日本語MS-DOS 2.0、PC-UX 1.0 | |
標準価格(本体+キーボード) | $3995(約97万円) | $5795(約140万円) | 758000円 |
※ 仕様は発表時点のもの。
※ PC/ATの最大搭載可能メモリは発表時点の仕様。後に発売される512KB/2MBメモリ拡張オプションを用いると最大10.5MBまで拡張できる。またPC/AT、PC-9801F3の両方とも、バンク切り替え式のメモリボードを増設すれば、対応するソフトでより多くのメモリを使用できるようになる。
※ ディスプレイアダプターやインターフェースボードが拡張スロットを占有するため、空きスロットの数はこれよりも少なくなる。
※ カッコ内の価格は発表当時の為替レート換算の数字。1985年末に日本IBMから発売された時のPC/ATの価格は、モデル068が91万円、モデル239が144万円とのこと。
同時に発表されたオプションの一部を挙げておく。
名称 | 価格 | 補足説明 |
256KBメモリモジュールキット | $495 | コンベンショナルメモリ増設用、Model 99には実装済 |
128KBメモリ拡張オプション | $350 | コンベンショナルメモリ増設用、拡張スロット使用 |
512KBメモリ拡張オプション | $1125 | プロテクトメモリ増設用、拡張スロットに5枚まで実装可 |
5.25インチディスケットドライブ(2D) | $425 | 160/180/320/360KBタイプディスケットを読み書き可 |
5.25インチディスケットドライブ(2HC) | $650 | 160/180/320/360KB(読みのみ可)、1.2MB(読み書き可) |
5.25インチ20MBハードディスク | $1595 | アクセスタイム40ミリ秒、2台まで実装可 |
数値演算プロセッサー(Intel 80287) | $425 | メイン基板上の空きソケットに実装 |
シリアル・パラレルI/Oアダプター | $150 | 拡張スロットに2枚まで実装可、Model 99には1枚実装済 |
※ 16ビットバスの拡張スロットの空きは5スロットしかないため、512KBメモリ拡張オプションを5枚実装すると128KBメモリ拡張オプションが実装できなくなる。
※ ディスケットドライブとハードディスクドライブは合計3台まで内蔵できる。
(ディスケットドライブ2台+ハードディスクドライブ1台 または ディスケットドライブ1台+ハードディスクドライブ2台)
PC/ATに実装可能なIBM純正ディスプレイアダプター・オプション
名称 | 発表 | 価格 | 補足説明 |
Monochrome Diaplay Adapter | 1981 | $335 | 720x350/モノクロ(テキスト80桁x25行、7x9ドットフォント) |
Color Graphics Adapter | 1981 | $244 | 640x200/16色(テキスト80桁x25行)、320x200/4色(グラフ) |
Enhanced Graphics Adapter | 1984 | $524 | 640x350/16色(テキスト80桁x25行)、640x350/4色(グラフ) |
ビデオメモリ拡張カード(64KB) | 1984 | $199 | EGAに実装するドーターボード、640x350/16色(グラフ)に対応 |
ビデオメモリモジュールキット(128KB) | 1984 | $259 | ビデオメモリ拡張カードに実装、追加機能をサポート |
Professional Graphics Controller | 1984 | $2995 | 640x480/256色(グラフ)、2D/3D描画機能をサポート、3枚構成 |
※ MDAとCGAではCGAの方が安価だが、CGAのテキスト画面は5x7ドットフォントで見づらく、また専用ディスプレイが必要だったためビジネスユースではMDAの方が好まれた。互換機の中にはMDAとCGAの両方をサポートする機種も存在した。後にMDAとCGAの両方の互換性を維持しつつ機能を拡張したEGAが発売されると、すぐにこちらが主流になった。
※ EGAは標準では64KBのビデオメモリを搭載しているが、オプションで128KBに拡張すると640x350/64色中16色(グラフィック)表示が可能になる。さらに256KBに拡張するとスムーススクロールや追加画面(ページ)が利用できるようになる。
※ PGCは拡張スロットを2スロット占有する3枚構成のディスプレイアダプターで、描画制御用プロセッサー 8088-2 と独立した320KBのビデオメモリを搭載しているのが特徴。CGA互換モードと高機能グラフィックモード(640x480/4096色中256色(グラフィック))をサポートする。画面モードが640x480/60Hz/ノンインターレースである点は後のVGAと似ている。
○IBM PC/AT(5170)モデル一覧
モデルナンバー | 発表日 | 標準価格 | 主な構成 |
068 | 1984/08 | $3995 | 80286 6MHz、256K RAM、ATキーボード |
099 | 1984/08 | $5795 | 80286 6MHz、512K RAM、20MB HDD、ATキーボード |
239 | 1985/10 | $5995 | 80286 6MHz、512K RAM、30MB HDD、ATキーボード |
319 | 1986/04 | $5295 | 80286 8MHz、512K RAM、30MB HDD、ATキーボード |
339 | 1986/04 | $5295 | 80286 8MHz、512K RAM、30MB HDD、101キーボード |
○PC/ATで扱えるディスケットの種類、フォーマット形式、ドライブの読み書き対応
記録媒体の種類 | 回転数 | 容量(U) | 容量(F) | セクタサイズ | セクタ数 | シリンダ数 | 2Dドライブ | 2HCドライブ |
5.25インチSSDD(1D) | 300rpm | 250KB | 160KiB | 512B | 8 | 40 | 読み書き | 読み |
5.25インチSSDD(1D) | 300rpm | 250KB | 180KiB | 512B | 9 | 40 | 読み書き | 読み |
5.25インチDSDD(2D) | 300rpm | 500KB | 320KiB | 512B | 8 | 40 | 読み書き | 読み |
5.25インチDSDD(2D) | 300rpm | 500KB | 360KiB | 512B | 9 | 40 | 読み書き | 読み |
5.25インチDSHD(2HC) | 360rpm | 1.6MB | 1.2MiB | 512B | 15 | 80 | 使用禁止 | 読み書き |
※ SSDD=片面倍密度、DSDD=両面倍密度、DSHD=両面高密度、容量(U)=未フォーマット時の容量、容量(F)=フォーマット時の容量
※ PC/ATで2HCフォーマットしたディスクはPC98のMS-DOSで読み書き可能だがPC98で2HDフォーマットしたディスクはPC/ATでは扱えない。
より技術的なことは IBM PC/ATのメモリマップ・I/Oポート・割り込み [PC/AT +1] を参照。
○現在のPCがPC/AT互換機と呼ばれるようになった由来
これはあくまでも推測だが、現在使われている意味でPC/AT互換機と呼ばれるようになったのは1980年代後半からであろう。
1987年、米IBMはPC/ATの次のシリーズである32ビットパソコン「IBM Personal System/2」(日本国内ではIBMパーソナルシステム/55)を発売した。主な特徴として、拡張スロットで新たに32ビット高速バスアーキテクチャー「Micro Channel Architecture(MCA)」を採用した。ところが、そのライセンス料金が高額なため、ほとんどの互換機では採用されなかった。その他のPS/2で追加された機能(キーボードやマウスの入力端子として使われている通称PS/2端子、グラフィック機能であるVGA、メモリスロットの72ピンSIMM)は互換機で受け継がれた。
つまり、互換機はPS/2の多くの仕様を受け継いでいるにもかかわらず、PS/2の代名詞とも言える32ビットMCAバスを採用せずにPC/ATのISAバスを搭載した。これがPS/2互換機ではなくPC/AT互換機と呼ばれるようになった理由である。
日本では1990年代までNEC PC98がパソコン市場を寡占していたため、DOS/Vが登場するまで日本語処理ができなかったPC/AT互換機はともかく、PC/AT互換機に日本語処理機能を加えたAXパソコンも普及したとは言いにくい。
日本エイサー Acer 915X,1100/20X
大進電機株式会社 ATコンパチ機広告
出典:月刊アスキー1988年12月号
旧ブログでのコメント
AUTHOR: YU
URL:
DATE: 2013/08/01 10:41:28
バーーーカ!
大きさのせろやコラァァァァ!!!!!!!!!