PCディスプレイの信号タイミング基準について
パソコン用ディスプレイのタイミング基準についての規格はVESA(Video Electronics Standards Association)が策定したDMT、CVTと、CEA(Consumer Electronics Association)が策定したCEA-861がある。
○VESA DMT (Display Monitor Timings, 独立モニタタイミング)
1990年にガイドライン策定。1994年に採択。
Windows普及以前のDOS・Win3.x時代から使われてきた古い規格。
GTFやCVTは画面解像度や垂直同期周波数を元に計算式でタイミングの規定値を求めるのに対し、DMTは画面モードごとに個別に規定値を定めている。
現在も800x600、1024x768、1280x1024などの画面モードではこの基準が使われている。
○VESA GTF (Generalized Timing Formula, 一般タイミング公式)
1998年に採択。2003年にCVTに置き換えられた。
DMTは画面モードごとに規則性のないタイミングを定めており、ディスプレイが複数の画面モードをサポートする上で不都合だったことから新基準を定めた。
○VESA CVT (Coordinated Video Timings, 調整ビデオタイミング)
2003年に採択。現在の標準規格。
GTFをもとに垂直同期周波数(リフレッシュレート)やアスペクト比、ピクセルクロックの調整についての規定を加えた。
また、GTFのタイミング公式はブラウン管ディスプレイに最適化されており、電子ビームの移動に必要な空白期間を多めにとるようになっている。
液晶ディスプレイではそれほど空白期間を必要としないため、空白期間を短くしたタイミング公式 CVT RB(Reduced Blanking) を新たに制定した。
(空白期間を短くした分だけピクセルクロックを落としてディスプレイへの負荷が減らせる。)
ワイド画面など最近にサポートされるようになった画面モードではこの基準が利用されており、将来の新たな画面モードもこの基準をもとにサポートされる予定である。
ちなみにVESAの公式サイトからGTFとCVTの計算シートを無料で入手できる(要登録)
○CEA-861
5回の改訂を経て現在の正式名はCEA-861-E。
HDMIなどAV関連のデジタルインターフェイスのための画面モードやタイミングを規定している。
いくつかの画面モードを定めているが、PC用ディスプレイでは1920x1080のみが利用されることが多い。
第3版にあたるEIA/CEA-861-Bで1920x1080が制定されたため、こちらの名前で呼ばれることもある。
○解像度の命名法
640x480は"VGA"、1024x768は"XGA"などとよく呼ばれているが、これらはIBM Personal System/2の表示機構に由来する俗称でありVESAの各規格では一切使われていない。
その代わりにCVT規格において画素数(ピクセル数)と画面比(アスペクト比)の縦の16進数値を用いた命名法を定めている。
(例: 1024x768は786,432画素で画面比が4:3であるから、"0.79M3"。
1920x1200は2,304,000画素で画面比が16:10であるから、"2.30MA"。)
○代表的な画面モードと水平同期・垂直同期信号の極性
詳細なタイミング規定については各規格書を参照すること。
基準元規格に"VESA"と付けた画面モードはDMT規格においてVESA標準として定められている。(ここでは便宜上の都合でそう記述しただけであって、公式ではそのような記述はない。)
同期信号の極性はCVT規格にて、タイミングがCVT公式に適合(H-負,V-正)、CVT RB公式に適合(H-正,V-負)、不適合(H-正,V-正またはH-負,V-負)と定めている。
俗称 | 解像度@VFreq | H Freq | V Freq | ピクセルクロック | H極性 | V極性 | 基準元規格(採択年) |
VGA | 640x480@60Hz | 31.469kHz | 59.940Hz | 25.175MHz | 負 | 負 | 業界標準(IBM PS/2) |
640x480@75Hz | 37.500kHz | 75.000Hz | 31.500MHz | 負 | 負 | VESA DMT(1993) | |
640x480@72Hz | 37.861kHz | 72.809Hz | 31.500MHz | 負 | 負 | VESA DMT(1992) | |
SVGA | 800x600@56Hz | 35.156kHz | 56.250Hz | 36.000MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1990) |
800x600@60Hz | 37.879kHz | 60.317Hz | 40.000MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1990) | |
800x600@75Hz | 46.875kHz | 75.000Hz | 49.500MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1993) | |
800x600@72Hz | 48.077kHz | 72.188Hz | 50.000MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1990) | |
XGA | 1024x768@60Hz | 48.363kHz | 60.004Hz | 65.000MHz | 負 | 負 | VESA DMT(1991) |
1024x768@75Hz | 60.023kHz | 75.029Hz | 78.750MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1993) | |
WXGA | 1280x800@60Hz | 49.306kHz | 59.910Hz | 71.000MHz | 正 | 負 | VESA CVT RB(2007) |
SXGA | 1280x1024@60Hz | 63.981kHz | 60.020Hz | 108.000MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1996) |
1280x1024@75Hz | 79.976kHz | 75.025Hz | 135.000MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1993) | |
WXGA+ | 1440x900@60Hz | 55.935kHz | 59.887Hz | 106.500MHz | 負 | 正 | VESA CVT(2003) |
WSXGA+ | 1680x1050@60Hz | 65.290kHz | 60.000Hz | 146.250MHz | 負 | 正 | VESA CVT(2003) |
UXGA | 1600x1200@60Hz | 75.000kHz | 60.000Hz | 162.000MHz | 正 | 正 | VESA DMT(1996) |
Full HD | 1920x1080@60Hz | 67.500kHz | 60.000Hz | 148.500MHz | 正 | 正 | CEA-861(2002) |
WUXGA | 1920x1200@60Hz | 74.038kHz | 59.950Hz | 154.000MHz | 正 | 負 | VESA CVT RB(2003) |
WQHD | 2560x1440@60Hz | 88.787kHz | 59.951Hz | 241.500MHz | 正 | 負 | CVT RB |
4K UHD | 3840x2160@60Hz | 133.313kHz | 59.997Hz | 533.250MHz | 正 | 負 | CVT RB |
○かつてよく使われていた画面モード
VESAによる標準化が進む前は、機種や表示装置ごとに固有の画面モードが使われることが珍しくなかった。
その中でも代表的なものを挙げておく。
なお、画像メモリ上の解像度とディスプレイ表示上の解像度は必ずしも一致するとは限らない。
解像度@VFreq | H Freq | V Freq | ピクセルクロック | H極性 | V極性 | 採用例 |
512x256@61Hz | 15.980kHz | 61.460Hz | 4.858MHz | 負 | 負 | Sharp X68000(256x256) |
640x200@61Hz | 15.980kHz | 61.226Hz | 14.318MHz | 負 | 負 | NEC PC-8801 |
640x350@70Hz | 31.469kHz | 70.086Hz | 25.175MHz | 正 | 負 | IBM PS/2 VGA(EGA互換モード) |
640x400@56Hz | 24.827kHz | 56.424Hz | 21.053MHz | 負 | 負 | NEC PC-9801,PC-9821 |
640x400@70Hz | 31.469kHz | 70.086Hz | 25.175MHz | 負 | 正 | IBM PS/2 VGA(CGA互換モード) |
640x400@70Hz | 31.469kHz | 70.086Hz | 25.175MHz | 負 | 負 | NEC PC-9821 (31kHz) |
720x400@70Hz | 31.469kHz | 70.086Hz | 28.322MHz | 負 | 正 | IBM PS/2 VGA(テキストモード) |
640x480@60Hz | 31.469kHz | 59.940Hz | 25.175MHz | 負 | 負 | IBM PS/2 VGA(グラフィックモード) |
640x480@67Hz | 35.000kHz | 66.667Hz | 30.240MHz | 負 | 負 | Apple Macintosh 13" Display |
768x512@55Hz | 31.500kHz | 55.460Hz | 34.775MHz | 負 | 負 | Sharp X68000(768x512) |
832x624@74Hz | 49.725kHz | 74.500Hz | 57.283MHz | 負 | 負 | Apple Macintosh 16" Display |
1024x768i@43Hz | 35.522kHz | 43.479Hz | 44.900MHz | 正 | 正 | 8514/A,XGA/A |
1024x768i@58Hz | 46.083kHz | 58.139Hz | 58.000MHz | 正 | 正 | PS/55 ディスプレイアダプターⅡ |
1024x768@75Hz | 60.241kHz | 74.927Hz | 80.000MHz | 負 | 負 | Apple Macintosh 19" Display |
1152x870@75Hz | 68.681kHz | 75.000Hz | 100.000MHz | 負 | 負 | Apple Macintosh 21" Display |
○関連
- PCディスプレイ出力端子のピン割り当て [IBM互換機]
https://diarywind.com/blog/e/g13_162_pc_ibm.html - VGA端子(アナログRGB)についてメモ
https://diarywind.com/blog/e/g13_124_vgargb.html