IBM 5550のひらがな50音キーボード(5556R01)配列
昔のビジネス用パソコンについては資料も実機も「いい物」を手に入れられる機会が中々なく、2000年代まではかろうじて情報の断片が書かれていたサイトもホームページサービスの終了に巻き込まれ、ネット上から忘れられた遺物となっています。PS/55に関してはSandy様(とArdent Tool)のところが唯一で最大の情報サイトになっていますが、5550ファミリーに関してもここが唯一の情報源になっていて謎が多い。
この5550について私は紙面上での知識しかありませんが、知れば知るほど奇妙なパソコンで興味深いものですでした。そのうちの一つはキーボードの種類の豊富さ。
5550はそれまで別々のハードだったワープロ、パソコン、通信端末の3つの機能を併せ持つシステムとして登場し、用途によってキーボードが選べるようになっています。
最初に登場したのが5556001(I型鍵盤)と5556002(II型鍵盤)の2種類なのだけど、見た目は全然違いが分からない。よく見るとテンキーの刻印が一部異なるのが分かります。
SKIPキーは3270端末で使われていたキーで、役割はTabキーと同等みたいですね。たったこれだけの違いとはいえ、端末オペレーターにとっては死活問題なのでしょうか。
5556005(漢字鍵盤)という24万円するキーボードは見た目が独特で迫力があります。かな漢字変換がまだ備わっていなかった頃の3270端末や5250端末で使われていたキーボードの配列を引き継いでいます。
5556R01 あいうえお順RPQ鍵盤
上記のサイトで不明となっている(最近、情報が追加された)キーボードです。日本IBMが発行していたACCESSという雑誌の1984年8月号に以下のように概要か書かれています。
5月28日付で、IBMマルチステーション5550用1型鍵盤(5556-001)をベースとしたRPQ製品、あいうえお順鍵盤(5556-R01)が発表されました。
当製品は、初心者でもタイプライター型鍵盤からかな文字を簡単に入力できるように、人間工学的にキー配列を研究し実現したあいうえお順配列であり、またキーの色を一部変えることで使いやすさを向上しています。
なお、当鍵盤を使用するためには、次のあいうえお順RPQ鍵盤支援プログラムのいずれかが必要となります。
- 日本語ワード・プロセッサー用 (5600-JWR)
- 日本語ビジネス・パーソナル・コンピューター用 (5600-JPR)
- 3270漢字エミュレーション用 (5600-JCR)
まず名称にインパクトがありますが、RPQ (request for price quotation)とは標準価格が設定されていない特注製品のこと。
キー配列は紙面に記載されていたものをトップに画像で載せていますが、見ての通り、右上から時計回りにあ行、か行と1段ずつ並んでいます。な行からは左列下段から、な・に・ぬ・ね・の、が逆順に配置され、同様には行、ま行があり、最上段はや行とら行が混在しています。わ・を・んは中央のYとUの位置に配置されています。
1984年というと、入力効率を考えた新JISキー配列や初心者に適した50音順配列など、従来のJISキー配列に替わる新配列が色々考案されていた時代です。新JIS配列はJIS配列に見慣れている私からすれば「頭がおかしくなりそう」と言いたくなりますが、NECのPWP-100というワープロはもっと変態的な形をしています。あいうえお順RPQ鍵盤もこの時代の流れから試行的に出てきた製品なのでしょう。
というか、WindowsからPCを使い始めた世代は知らないと思いますが、当時はかな入力を使う人が割合的に今よりかなり多かったようです。日本語を入力する場合はかな入力の方が効率良く、今と違ってキーボードが専らデータ入力の仕事道具に使われていたからそのような状況だったのでしょう。私も家にCRTのワープロ専用機があった時はかなで入力するものだと思っていましたが、PCを使い始めてから通常はローマ字で入力するものと無意識に植え付けられていた気がします。
ちなみに、5550用日本語DOSは初期バージョンではかな入力しかできず、バージョンK2.2からローマ字変換に対応しています。
上記製品概要の後半にある「支援プログラム」というのはIBM用語です。今なら「サポート・プログラム」で普通に通じるでしょう。わざわざプログラム番号を付してあるということはおそらく別売です。今の時代ならドライバーが付いてくるのが当たり前ですね。いや、OSのジェネリックドライバーで動くかダウンロードするものだから、付いてくるっていう表現も変か。