IBM PS/55 モデル5570-S 仕様とディスプレイ・アダプター
基本仕様
1987年5月12日発表、同年9月30日出荷。米国IBM PS/2 Model 80 (8580-071)がベース。
システム名 | 5571システム装置 | ||
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型名 | S0A | ||
タイプ | 24ドット・カラー | ||
メイン・プロセッサ | 80386 16MHz | ||
数値演算プロセッサ | 80387 16MHz (オプション) | ||
主記憶(標準~最大) | 2M~16MB | ||
VRAM | 2MB | ||
表示機能 | キャラクタ | 漢字 | 41字×25行(24×24ドット/字) |
ANK | 82字×25行(12×24ドット/字) | ||
グラフィックス | 1,024×768ドット | ||
表示色 | キャラクタ | 16色 | |
グラフィックス | 26万2144色中16色 | ||
内蔵補助記憶 | フロッピ・ディスク | 1.44MB×2 | |
ハード・ディスク | 70MB×1~2 | ||
グラフィックス支援機能LSI | 表示装置アダプターが必要 | ||
漢字フォントROM | 表示装置アダプターが必要 | ||
拡張スロット | 32ビット/16ビット用×3、16ビット用×2 | ||
装置サイズ(W×D×H) | 165×483×597mm | ||
重量 | 23.6kg | ||
電源 | 100~125V/200~240V, 50/60Hz | ||
OS(別売) | 日本語DOS K3.30、OS/2 J1.0 | ||
本体価格 | ¥1,497,000 |
標準構成で2台の3.5インチFDDと70MBのハードディスクを内蔵し、当時にしては豪華です。
報道発表資料や広告などに書かれている「最小構成223万円から」というのは、後述するオプションのうち使用に必須となる表示装置アダプター(4773089)、カラーディスプレイ(5574C02)、キーボード(5576001)を合わせた価格のようです。
オプション製品
ID | 名称 | 標準価格 |
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4773078 | マウス | ¥18,000 |
4773089 | 表示装置アダプター | ¥320,000 |
5574C02 | 16" カラーディスプレイ | ¥370,000 |
5576001 | 鍵盤 | ¥43,000 |
5962899 | 80387数値演算プロセッサー | ¥147,000 |
5962875 | 2MBシステムボード記憶拡張キット | ¥240,000 |
5962876 | 記憶拡張カード | ¥295,000 |
5962892 | 2MB記憶拡張キット | ¥240,000 |
5962893 | 5.25型ディスケット駆動機構アダプター | ¥40,000 |
5962894 | 5.25型ディスケット駆動機構 | ¥85,000 |
5962873 | 70MBハードディスク駆動機構 | ¥500,000 |
4773080 | 多手順通信アダプター | ¥73,000 |
4773082 | 2回線非同期通信アダプター | ¥40,000 |
4773091 | 3270接続アダプター/プログラム・キット | ¥212,000 |
4478932 | 磁気ストライプ読取機構 | ¥86,100 |
5962898 | 磁気ストライプ読取機構アダプター | ¥50,000 |
記憶拡張カード(5962876)は拡張スロットにメモリーを増設するためのアダプターで、2MBのメモリーを含みます。アダプター上のスロットに最大2つの2MB記憶拡張キット(5962892)を増設できます。メモリーが24万円で、アダプターが5万円だとすると、当時のメモリーはべらぼうに高い。しかし、同時期に富士通FMR-70用の2MBメモリーが17万円したという情報もあり、あながちIBMが高すぎとも言えない。
ディスプレイ・アダプターの謎
このモデルの最大の謎はディスプレイ・アダプターだろう。Sandy氏のサイトでは次のような記述がある。
初代 S モデルは 日本語表示装置アダプタ ( ID # 47773089 ) を AVE専用スロットに装着しますが、このアダプタは5570-S + KDOS3.3 では日本語表示に必須であるにもかかわらずオプション扱いであったようです。 ちなみにこのカードは2スロット分を占有します。 価格は嘘のような\320,000 というお値段でした。 尚、私は「2階建て」と表現していますが正しくは 3枚の基盤( ベースボード、 FONT ROMボード、サブボード )による構成で、各々のP/Nは94X0970/94X0971/94X0972 であったようです。 )
VRAM 2MB! (4画面) どういう意味かわかりません。
この初代ディスプレイ・アダプターは1988年5月発表のPS/55モデル5550-S,T, 5570-Tに搭載されたディスプレイ・アダプターIIやその後継モデルのものとは一線を画す仕様だったようで、DOS J4.0のマニュアルには、モデル5570-Sのみアダプターの交換(FBM 38F7112)が必要と書かれている。FBMはField Bill of Materialの略称らしい。保守部品キットみたいな意味合いだろうか。
DOSバージョンJ4.0は、以下に示す機械の上で稼働するように設計されています。
- IBM パーソナルシステム/55 モデル5550-S, T, V
- IBM パーソナルシステム/55 モデル5570-S(FBM 38F7112 (EC #C13008)が必要です)
- IBM パーソナルシステム/55 モデル5530Z
- IBM パーソナルシステム/55 モデル5500-S/T
テキストモードの違いは既に前の記事で挙げている。
だが、最も興味深いのはVRAMが2MBという点だろう。後継のディスプレイ・アダプターII以降でもVRAMの容量は512KBか1MBである中で、なぜ初代だけ2MBも積んでいたのか。これについては雑誌『事務と経営』1987年臨時増刊号に短いながらもヒントが載っていた。
2MB(4画面分)の画面メモリー(VRAM)をもつ表示装置アダプターの開発と製品化により、ハードウェア・ビューポート(ハードによるウィンドウ機能)のサポート可能。約256,000色中16色の同時表示。1024×768(グラフィック・モード)の高解像度表示の実現
ビューポートとは、仮想画面の一部を切り抜いて実画面の一部に映し出す機能のこと。競合機種のFACOM 9450Σがマルチウィンドウ機能を持っており、それに触発された可能性も少なからずある。BASICインタープリターの説明には次の図で説明されている。
しかし、私がエミュレーター開発中にJ-DOSやOS/2を検証した限りでは、ディスプレイ・アダプターIIではビューポートのレジスターは使われておらず、BASICインタープリターのVIEWコマンドはソフトウェアで制御されるのか、ビューポートに関連する機能をハードウェアに実装しなくとも正常に動作する。ハードウェア・ビューポートを使用するソフトウェアがない以上、機能を実装しようにもできない。
それ一つでは大した意味を成さない断片的な情報も、いくつかを繋ぎ合わせてみると関連性が見えてくることがある。その中で気になったのが、日本IBMが1987年10月30日付けで発表した「レイアウト・ディスプレイ・ターミナル(LDT、総合編集端末)」という製品だ。
LDTは新聞社向けの紙面編集用の端末で、マルチステーション5550をベースにしたシステムなど、同じ名称でいくつかの世代の製品が発表されている。1987年発表時の詳細は見つからなかったが、翌年にモデル5570-TをベースにしたLDTが発表され、その時の紹介は以下のようになっている。
表示装置の型式は5574-R09、サイズは19インチ、表示解像度は1344×1344ドットとある。
また、OS/2 DDKに付属のソースコードにはディスプレイ・アダプター各種のコードネームが記載されている。
;
; Adapter Card ID
;
ToledoId equ 0efffh ; Card ID for Toledo display adapter
AtlasIDS equ 0EFEBh ; Card ID for Atlas IDS display adapter
AtlasId equ 0effeh ; Card ID for Atlas display adapter
AtlasEVTId equ 0ffedh ; Card ID for Atlas EVT display adapter
AtlasKENT equ 0ECECh ; Card ID for AtlasKENT display adapter
AtlasSP2 equ 0EFD8h ; Card ID for Atlas-SP2 display adapter
LDTId equ 0e013h ; Card ID for LDT display adapter
LDTEVTId equ 0fffdh ; Card ID for LDT EVT display adapter
AtlasII_Start equ 9000h ; Card ID Range Start for ATLAS II
AtlasII_End equ 901Fh ; Card ID Range End for ATLAS II
このことから、LDTがディスプレイ・アダプターをベースにしている可能性が高いことと、初代ディスプレイ・アダプターのコードネームが “Toledo” 、後継のII以降は “Atlas” であることが分かる。
ワークステーション競合機への対抗やLDTとしての用途を考えてToledoが開発されたものの、当時のメモリーは高価でディスプレイ・アダプターも高額になってしまったことから、VRAMを節約する代わりにBitBLTを実装したAtlasが開発されたのかもしれない。