Image: セントラルパーク地下街(1978年竣工)の建築設備

設備的な目線で勉強にさせてもらう。クソ古い情報(1978年竣工時)で現行設備とは異なる可能性あり。

出典:『BE建築設備』30(4)(337),建築設備綜合協会,1979-04. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3223790 (参照 2023-02-03)より。

熱源設備:従来、井水の使用が可能な時代に於いては、井水熱源ヒートポンプ方式の例が多く見受けられ冷却塔、煙突を無くす方法がとられてきたが、汲み上げ規制に伴い井水の使用は不可能となった。

「井水熱源ヒートポンプ」とは余り聞き慣れない言葉。それもそのはずで、日本はアメリカ・中国や北欧諸国に比べても地中熱利用ヒートポンプの設備件数・容量が圧倒的に少ない。ここ10数年でようやく見直され、小規模の物件で導入されてきている。ただ、大規模物件になるとクローズドループ方式では出力に比して初期費用が莫大になり、かといって、効率が良いオープンループ方式は地盤沈下防止の観点から地下水の汲み上げ規制に引っかかるので採用できない事情がある。らしい。日本のような狭い国土ではなかなか難しそうだな。

当地下街は隣接したビルを利用し冷却塔、煙突を設けることができたため熱源としてガス吸収冷温水発生器2台と冷房用ターボ冷凍機2台を設け、これを夏期は系統図のごとくシリーズに組み合わせ冷水温度差Δt=7℃とし空調機及びファンコイルユニットへ供給している。又、冬季はターボ冷凍機で冷水を冷温水発生器で温水作成しファンコイルユニットへ冷水を空調機へ温水を供給し冬期の冷房を可能としている。

ああいう地下街ってどこで排熱しているのかと思ったらそういうこと。それに、2管式でファンコイルに冷水、空調機に温水を送ることで、冬期でも暖房だけでなく冷房も使えるようにする手法もあるのか。

噴水設備(ロスアンゼルス広場):30ほどの段床の組み合わせで構成され、最上部2ヶ所から噴出した水を順にオーバーフローの形式で下部に落下させる。

設備 スペック
循環ポンプ 200φ×6,000l/min×15m×22kW×3台
ろ過器 40m3/h ×1台
小噴水 65φ×300l/min×25m×3.7kW ×1台
デジタル噴水時計 ×1台

2020年の久屋大通公園整備により現在は撤去されているロサンゼルス広場と噴水。口径200の水道管、毎分6トンの送水能力って結構だな。噴水を維持するのってそんなに大変なのか。

Image: セントラルパーク

これだけでも電気料金がヤバそうだが、これとは別にさかえ川という長さ130mの人工河川用設備がある。

Image: セントラルパーク

長さ130m、幅平均6mであり、全体を6つのブロックに区切り、上流、下流、約1.5mHの差をもたせオーバーフローしながら下流へ流す。循環ポンプ停止時に水が排出されないよう、最大層の隣に約100m2の埋設型貯水槽を設け停止時、運転時の水位調整を図る。(ロスアンゼルス広場も同様)

これも18.5kW×4台の循環ポンプと60m3/hのろ過器を備えている。

今後、施設で噴水や人工河川を見る度に「あの水の揚程と水量を見るに**kWのポンプを使ってるのかな。見栄をはるのも大変だな。」などと夢がないことを考えてしまいそう。

受変電設備:中部電力(株)南武平町変電所より3相3線33kV 60Hz 3回線スポットネットワークにて、地下2階特高電気室に受電し、6.6kVに降圧し、館内3ヶ所の2次変電所へ配電している。

名古屋ではこの辺(栄周辺)でしか見かけないスポットネットワーク受電。近年は送電設備や地中ケーブルの改良が進んで地下の送配電網が停電することは滅多になく、広域停電や瞬時電圧低下に備えるなら商用電源が停電することを前提にUPSと非常用発電機を併用する方が確実だと思う。

受電用遮断器は高圧側にあって、磁気遮断器(MBB)が使われているところに時代を感じる。

電気室、機械室が広大な地下街に散在しているため、ミニコンピューターを使用した中央監視設備を採用し、日常の監視、記録業務の合理化、省力化を図っている。

ミニコンピューター!死語が出てきた。仕様表からも時代が垣間見える。「グラフィック」という用語が度々出てくるが、これは特に記載がない限り液晶ディスプレイでもCRTでもなく、平面図や系統図に表示灯を組み合わせた看板(表示盤)のようだ。

Image: セントラルパーク

CPU盤には「中央演算装置:コアメモリ24KW、DMAチャネル、フェイルセイフ機構、IPL機構、入出力インタフェイス」とあり、これがミニコンピューターと考えられる。機種名は明記されていないが、当時のラインナップを調べるに三菱電機の制御用コンピューターMELCOM 350辺りか。CRTディスプレイは電力計測値や設備運転状況の表示に使われているようだ。日報や状態・操作・故障履歴の出力にタイプライターが使われている。現代なら数万件・数年分の履歴がデータとして残せるのでそんなもの必要ないが、ここで使われている補助記憶装置は「固定ヘッドディスク131KW×2」。ディスプレイだって一度に表示できる情報量は限られているので、紙に書き出す必要があったのだろう。

空調自動制御は鷺宮製作所のMABEXという特注システムを使っているようで、機能概要は記載されているが技術的な詳細は分からなかった。

Image: セントラルパーク

防災設備は自火報、スプリンクラー、屋内消火栓、泡消火(駐車場用)、ハロンガス消火(電気室用)、防火戸シャッター、排煙口、非常放送、監視カメラ、非常コンセント、非常電話、消防・警察用無線と、現代とさほど変わらない十分な設備を揃えている。火災対策については詳細に記載されている一方、地震対策については感震計の設置のみの記述に留まっているあたりが最近の動向と違うなと感じた。

本記事中の写真はFile:River park5.jpg - Wikimedia Commons『ショッピングセンター』5月(67),日本ショッピングセンター協会,1979-05. 国立国会図書館デジタルコレクションより。


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