171105 VN『鬼がくる。~姉がひん死でピンチです~』 感想
ビジュアルノベル『鬼がくる。~姉がひん死でピンチです~』(えにしそふと / 2017年9月)の感想。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。
原画の人が『鬼うた。 ~鬼が来たりて、甘えさせろとのたもうた。~』(130cm / 2009年)と同じなのだが、タイトルもキャラクターまでも似せてきている。未プレイなのでストーリーには言及できないが、殺傷シーンありのヤンデレ墜ちルートがあったと聞く。
作品タイトルの文面だけだとおどろおどろしい感じがするが、実際には、ちょこっと角が生えた女の子の神様が主人公の姉を助けようとする願いを叶えるため現世に顕現する話であり、言葉の意味よりもコミカルさと印象付けを狙ったものと思われる。
感想 (No.38)
シナリオ
ストーリーは共通パートと個別パートが3:2くらいで、全体としてはやや長めに見える。凜々ルートには晴子が大きく介入するため、結果的にサブヒロインのような扱いになっている。選択肢出現はパート分岐点の1回のみ。
体験版の時点で予感していたことなのだが、日常パートが冗長で読んでる側がだるくなる。特に晴子が他のヒロインに絡むと下ネタに始まり不毛な言い争いになることが多い。これで話が蛇行するどころか2・3周余分に回らされている気分になる。「暴走系甘えん坊お姉ちゃん」はいいのだが、少し出しゃばりすぎな上に、会話と地の文の言い回しが下手なラブコメ系ライトノベルと同レベルでテンポがぐだる。また、主人公がかなりの受け身・ヘタレであり、劇中でヒロインや第三者からそれを指摘されても自分から現状を変えようとせず、なお引っ張り続けるからたちが悪い。一人葛藤する場面が長いし、その内容も同じ問題で何度も悩んでいるのでくどい。晴子ルートでは最後に両者(というか晴子)が吹っ切れて本音をさらけ出すが、そのカタルシスに至るまでに読み手がだれてしまう。共感できない主人公が視点の物語を読んでいても読み手にストレスがたまって疲弊するだけなので、むしろヒロイン視点で主人公をどうかしてやる話の方が面白そうだ。
凛々ルートと晴子ルートでは姉弟と恋人関係で葛藤する話であることに比べると、虚姫ルートは平等な愛か一人の異性への愛かという話になりそうでいて、その辺りはすんなりクリアしてしまっている。神が地域から忘れられる(信仰を失う)中、主人公らは最後まで運命にあらがおうとするが、その魂の訴えも叶うことなく無常に終わる。結局別れの演出に持っていっただけで、前半での活動や過去の回想、最後のあがきがどういう成果をもたらしたのか回収しないまま終わってしまっている。エピローグでは真凛の正体や虚姫の帰還について何の伏線もなく突然出して謎を残したまま終わっているが、この話はストーリーに必要なのだろうか。FDや次回作フラグ?
グラフィック
技術的に突出した点があるわけではないが、クオリティは上々。精巧さは欠ける分、原画の大胆な書き味がコミカルさを演出していて、本作の特徴に繋がっている。制服デザインがセーラー服のありきたりなものだが、服のごわごわ感が良い味を出している。その代わりだろうか、虚姫の和装は作り手側としては苦労した部分だろうに、特に不自然に感じる部分もなく、よくできていると思う。立ち絵も1枚絵も、各人物の百面相が一番の見どころなのだが、イラストブックでは表情差分のうち無難な表情しか入っていないのでもったいない。原画の実力が作品に活かされていると言える。
HシーンのCGでは身体の汗やむっちり感が晴子のキャラクターに合致していて良い。虚姫にも和装少女という別の魅力があるが、そうやってみていくと凛々はキャラクターの魅力がいまいち薄い。
画面解像度が1600x900と高めで、WQHD全画面でもジャギーが目立たない点はよかった。
システム
画面インターフェースのデザインは作風に合っていて良い。機能はノベルゲームに必要十分のものを備えており、それ以上でもそれ以下でもない。バックログジャンプがあれば便利なのだが。ただ一つ、音楽鑑賞で曲のリピートがかけられない点が気になった。
総評
話がくどいために、晴子と主人公の本来の良さよりも悪さが目についてしまい、印象を悪くしている。また虚姫に関してはストーリーの芯がしっかりしないまま終わっているため、虚姫のアイドル活動といい過去の回想話といい、シナリオの取って付けたような蛇足感がぬぐえない。コンセプト・CGは良いのにシナリオの組み方・書き方がいまいち雑なために作品全体の印象・評価を下げてしまっているのが、非常に惜しく残念に思う。(2017/11/05完了)