Image: ハンディ電卓『カシオ メモリー8A』(1975年製)を修理する

カシオ計算機 メモリー8A (CD-813A) 電卓を修理する。

ハードの電卓って持ち込み道具に制限のある資格試験の時くらいしか使わない。そのために買った電卓は、自分が気に入ったデザインを選んだつもりだが、それでもなお味気ない。使いたい気にさせてくれる電卓はないかと前から思っていたが、中古で探していて、ふとこのFL管表示の電卓が気になった。

中古販売元の説明では「ニキシー管ディスプレイ!!」と銘打たれていたが、このような電池駆動のポケット電卓に使われるものだろうか。1960年代の卓上に設置するサイズの電卓と勘違いしているのか、ニクシー管の実体を知らないまま古風なワードを書いておけば誰か食いつくだろうと思ったか。

機種名で検索してみると、1974年から1975年まで製造されていたようだ。機能はルート計算、四捨五入(下2桁有効)、メモリー計算が付いていて、当時のラインナップ(カシオミニ電子計算機シリーズ)では、単3乾電池2本で駆動できるものとしては最上位機種になる。ディスプレイは緑色の螢光表示管 (VFD) 8桁ゼロサプレス方式。定価7,800円(今の物価に直すと16,000円くらい。なお、消費税導入前)。液晶 (LCD) を使った電卓『pocket-LC』はこの少し後に発売される。

Image: Casio Memory-8A

蛍光表示管 (VFD) のこと

蛍光表示管 (VFD) は一時期のCDプレーヤーやHDDレコーダーなどAV機器に広く使われていたが、最近は液晶ディスプレイ (LCD) や白色LEDによる表示が十分見やすくなり、家庭ではVFDをあまり見かけなくなってきた。ただ、今でもさほど珍しいものではない。ホテル客室のナイトパネルで時計の表示に使用しているところは未だ多くある。最近完工したばかりの電気室でもメーターにVFDが使われている所を見る。

Image: 蛍光表示管 (VFD)

VFDをよく見てみると、カソード(タングステン製ワイヤー)が横に走っている。また、カソードから放出された電子の拡散と制御に使われるグリッド(網目)が見える。

Image: 蛍光表示管 (VFD)

VFDは使い込むほど輝度が暗くなり、寿命(50%時)は30000時間らしい(→ナイトパネル 電波時計 - 八洲電研)。LED照明は30000時間から故障率が上昇し始めるので、それより少し短いくらいか。常時点灯であれば3年半という計算になる。LCDは応答速度が劣っていて、特に温度が氷点下になると表示が著しく見劣りするが、VFDにはこのような制約はないため、寒冷地での使用に適している。

なお、電気室のメーターでVFDを使用するものがある理由は、寿命がどうこうではなく単純に表示が見やすいからだと思う。モノクロ液晶 (LCD) は周囲環境の明るさに合わせてコントラストを調整しないと見づらい場合があるが、VFDは蛍光体が発光するという構造からコントラストが高く調整が要らない。実際、同じメーターでディスプレイにVFDとLCDを選択できる機種があるが、VFDにはコントラスト調整機能がないだけで、製品としての耐環境性やメーカーのディスプレイ推奨交換周期はどちらも同じ。

分解修理を試みる

この電卓の話に戻る。販売元の説明によれば、電池を入れても電源が入らないらしく、ワンコインで売られていた。ノートパソコンで電源が入らないは致命傷だが、電卓の電源が入らないなんて、外観上に踏んで壊したような跡がなければ、電子部品の故障と内部配線の断線という可能性が半々だろうか。断線くらいならすぐ直せるし、直せなくてもワンコインだし諦められるというつもりで買った。

Image: Casio Memory-8A

電池ボックス内のネジ1本を外せば、あとはラッチで軽く止まっているだけなので簡単に外せる。中はキースイッチ部とメイン基板の2層構造。プロセッサは日立HD3691(1975年6月製?)のみの1チップ構成。日立の4ビットCPUに該当しそうな型番はない。電卓専用のチップだろうか。ナイロンコネクタを使わず、金属線で基板同士を繋ぐという高等(?)技術。金属疲労で折ってしまわないか怖い。

Image: Casio Memory-8A

電池の受け金具に繋がる配線が外れている。ここが原因だろうか。

Image: Casio Memory-8A

これを修正する前に、ワイヤーストリッパーで被覆を剥ぎ、リードクリップで仮配線して電池を繋いでみる。使用電池はエネループ (1.2V x 2本)。

Image: Casio Memory-8A

ディスプレイが問題なく点灯した。キー入力して色んな表示をテストして、輝度・コントラストも良好。写真を通して見ると不点灯の白いセグメントが目立つが、実際は数字がはっきり見える。

電池ボックスの電線は錆付いてはんだがなじみそうになかったので、新しい電線を使った。金具がガワにツメで掛かっていて外れなかったので、これをハンダゴテで暖めながらはんだを付けるのに苦労した。ついでにアルミ電解コンデンサーの容量を測って、正常であることは確認できたが、さすがに30年が経過するといつ液漏れなどを起こしてもおかしくないので、手持ちの新しいコンデンサーに交換した。耐圧はそこまで厳密に合わせなかったが、耐圧50Vのコンデンサーはエネループ使用時の実測でDC 14Vの電圧が掛かるので、耐圧25Vはあった方が良い。

現行製品と比較してみる

カシオの現行製品 SL-310Aとの比較。縦横のサイズは若干の違いだが、厚みが大きく違う。メモリー8Aは大きいポケットなら入るが、名刺や手帳のように胸ポケットに入れるのは厳しい。

Image: Casio Memory-8A

SL-310Aの視野角は比較的広いが、周囲の光の反射具合によっては見づらくなる。バックライトがないので、暗い環境では表示は見づらい。メモリー8AはVFDが黒半透明のパネルのやや奥にあり、あまり角度を付けて見ると写真のように表示が隠れてしまう。一方、VFDはそれ自体が光っているので、パネルに蛍光灯などの強い光が反射していなければよく見える。もちろん暗闇でははっきり見える。VFD自体は今も現役だが、電卓で使われているものは見ない。LCDに比べて消費電力や厚みに不利があるんだろう。長時間使用に配慮してか、メモリー8Aは別売のACアダプターを接続できるようになっている。

実際に使っていて分かったことは、メモリー8Aのディスプレイには+やM+といった演算キーを押したときの表示は用意されていないのだが、それらのキーを押すとディスプレイが一瞬だけ全桁点灯して、電卓がキーに反応したことが分かる。特にルート計算すると色んな数字がパラパラッと表示されるので、チップの仕様によるものだろうか。興味深い。

Image: Casio Memory-8A

キースイッチのストロークはメモリー8Aの方が若干深い。キーの形状をよく見ると、メモリー8Aは左右に対して僅かに凹型となっているのに対し、SL-310Aは前後に対して僅かに凸型となっている。また、メモリー8Aのキーは2色成型っぽい。2色成型のキーは現行機種では8000円クラス以上の高級機種で使われている。早打ち(キーロールオーバー)は対応していないが、同時押しで違う動作を起こすこともない。小ネタだが、8桁を埋めた状態(例えば「11111111」)にして1から9のすべてのキーを同時に押すと、小数点を含むすべてのセグメントを点灯(「8.8.8.8.8.8.8.8.」)させることができる。ゼロ除算や桁あふれ(オーバーフロー)は最小桁に「E」の表示となる。

基板を比較。

Image: Casio Memory-8A

スケールが何もかも違う。カシオは1975年に厚みを半分にしたLCD電卓を発売しているが、部品レベルでどうやって薄型を実現したのか気になる。

参考サイト


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