『CORE MEMORY ヴィンテージコンピュータの美』(2008年)を読む
CORE MEMORY - ヴィンテージコンピュータの美(オライリー・ジャパン、2008年発行)を読む。
こちらは今から8年前に発売された本だが、昔のコンピューター(主に米Computer History Museum所蔵のもの)を取り上げた写真集だということで、気になって手に取ってみた。
本書では主に1980年代以前の32台のコンピューターが取り上げられている。大型コンピューターから始まり、ミニコンやパソコンと続く。マシン1台に対して数ページにわたって写真が1~2枚ずつあり、マシンの主な用途やそれが登場した歴史背景、製作者の経歴が書かれている。内容的にコンピューターの歴史を知るには情報が断片的かつ不十分で、どちらかというとアンティーク好きの人向け。でも予備知識があれば存分に楽しめるはず。
気になったマシン
Konrad Zuse Z3 - 本書では世界最初のプログラマブルコンピュータとして取り上げられている。加算機が110Vリレー(ヨーロッパだから230Vか)のような、コンピューター向けとは思えない部品で構成されている。さすがに機械式リレーでは稼働時間は短かったようだ。ぜひとも音付きで実動状態を見てみたい。
一昔前の話では世界最初のコンピューターと言えばENIACだったが、それより前のコンピューターの存在はWikipediaを読むまで知らなかった。私はそこでエニグマを調べたときにColossus、Zuse K3など戦時中に開発された計算機の存在を知って、それからDECなどの海外のコンピューターにも興味がわいていった。
YoutubeにはColossus復元機の実動動画がある。
ENIAC - Zuse Z3には条件分岐がなく完全なコンピューターとは言えなかったが、プログラムをテープ(映画用フィルムに穴を開けて使ったらしい)から読ませることはできた。ENIACはコンピューターとしては完成していたが、プログラムを格納する能力がなかったという。電話帳機能がない電話みたいなものか(いやいや、苦労の度合いが違いすぎる) このマシンを見たIBM元社長のワトソン・シニア氏は、そのコストの高さ・信頼性の低さからとてもオフィスに普及するものとは思わなかったようで、この時点ではコンピュータ事業には消極的だった。
UNIVAC I - メインメモリに水銀遅延線を使っている。と言われてもよくわからないのだが。トランジスタ化前のコンピューターはこれといい、日本国内で使われたパラメトロンといい、今からすればいにしえの技術の塊で面白い。
コアメモリ - そもそも本書のタイトルの元の意味 コアメモリ(磁心記憶装置)を知らない人は多いのでは。写真を見ると、無数のワイヤー格子の交点にリングが一個ずつびっしり付いている。もちろん、当時は自動生産の設備などなかったので、組立はアジアで手先が器用な女性(日本を含む)の手によって行われたという。
Minuteman I Guidance Computer - 弾道ミサイルに収められたコンピューター。磁気ディスクも搭載されたというのはちょっと驚き。Texas Instrumentsその他の企業がICを量産するきっかけを作った。写真で見る造形の美しさに反して、説明はコンピューターと軍事産業との結びつきを強く意識させ、何とも複雑な気持ちになる
IBM 7030 - IBM初のスーパーコンピューター。コンソールパネルのスイッチが1000個以上はあるが、もうちょっとスマートにならなかったのだろうか。本機は生産段階で性能が設計当初の目標に及ばないことが判明し、販売は中止された。
IBM S/360 - 赤く輝くEmergencyスイッチ。押してみたいw (よく見るとPULLだ) System/360(モデル40)の日本における受注1号機は1965年10月に東海銀行に導入された。横浜港から名古屋まで8トントラックで時速10km(陸路2日)という低速で運ばれた。
IBM 2401 磁気テープ装置 - 1965年10月発表。1970年代の一般人にってのコンピューター像。ライダーや戦隊モノで敵の拠点にコンソールと共によく置かれている奴。容赦なく壊される奴ー。
File:IBM System 360 tape drives.jpg - Wikimedia Commons
DEC PDP-8 - コンソールパネルが美しい。ほれぼれする。日本では1970年に理経産業からPDP-8/Eが$4990(TTY無)で発売された。
DDP-116 - 最初の16ビットミニコン。メーカーがハネウェルに買収されてシリーズは消えていくことになるが、後継のDDP-516はARPANETの前身のネットワークのルーターIMP(Interface Message Processor)に使われた。全く知らないマシンだったが、歴史の繋がりを見つけると俄然興味がわいてくる。
Kitchen Computer - 1960年代にこのような斬新なアイデアを持ったマシンがあったとはw
- iPad以前の1969年、キッチンで使えるコンピューターがあった - WIRED.jp
- http://wired.jp/2012/11/28/kitchen-computer/
Cray-1/2/3 - 1980年代の代表的なスーパーコンピューター。その見た目から日本でも「椅子」「ベンチ」の愛称で親しまれたw現在もドイツ博物館に展示されている。
- クレイ! 思わず座っちゃおうかと… 背後にIBM360。 - Picture of Deutsches Museum, Munich - TripAdvisor
- https://www.tripadvisor.com/LocationPhotoDirectLink-g187309-d190295-i95456801-Deutsches_Museum-Munich_Upper_Bavaria_Bavaria.html
このあとApple I、Apple II、TRS-80、オズボーンI、Compaq Portableなどと続く。個人的にはプログラマ101とIMSAI8080は外せないんだけどなあ。本書にはない。
- 左の写真 File:Olivetti Programma 101 - Museo scienza e tecnologia Milano.jpg - Wikimedia Commons
- 右の写真 File:Museum-Enter-6094742.JPG - Wikimedia Commons
配線やパネルの写真も良いものだけど、基板好きとしてはもっと基板の写真が欲しかった。まあ博物館のものをばらすわけにはいかないか。あと、本書で新しく知ったマシンがいくつかあり、改めて無知と視野の狭さを自覚した。色んなマシンと技術者の歴史の上で今の産業が成り立っているんだなあ。