大型ファン始動時のサーマルリレー誤動作を解決する
3年くらい前の話、ある施設で出力15kW・5番手くらいのシロッコファンを始動させると、程なくしてサーマルリレーが動作し、ブレーカーがトリップして電源盤と遠方監視装置に故障警報が出る不具合を見つけた。このファンは換気の設計上、予備で付いているもので、他に常用のファンがあるので、こちらが自動で動くことはまずない。警報が出ようが動かなかろうが通常運用には支障ないものの、設備がそこにある以上は、不具合があれば調査して指摘するのが我々の仕事だ。
電源盤の主回路はもちろんスターデルタ始動で組んでいる。ファンの始動が完了してからサーマルが動作するまで何秒か猶予があるので、その間(平常運転)の電流値を計測してみると、35Aだった。これはサーマル整定値42Aに対して約0.8倍で、いたって正常。サーマルリレーはモーターを過負荷や欠相から保護する役割を担っている。整定値を上げると誤動作は回避できるかもしれないが、本来の目的である過負荷保護が働かなくなってしまう。
クランプメーターで始動から1秒ごとの電流値を測ってみる。なお、電源は三相200Vで、計測点は負荷側デルタ結線の内側(サーマルリレー入力の1線)、周囲温度は8度。
時間経過(秒) | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
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電流値(A) | 135 | 134 | 133 | 131 | 129 | 127 | 126 | 124 | 0 | 240 | 219 | 146 | 35 |
整定値に対する倍率 | 3.2 | 3.2 | 3.2 | 3.1 | 3.1 | 3.0 | 3.0 | 2.9 | 0 | 5.7 | 5.2 | 3.5 | 0.8 |
スターの間は3倍くらい。8秒目はスターからデルタへの切り替えタイミングであるため、電流は0になる。デルタになると6倍に跳ね上がるが、ファンが定格の回転速度に達して電流値は急速に下がる。12秒以降の電流値は安定している。こうしてみると始動時間が長い。スターが7秒でデルタが3秒。直入れにしても始動に7秒はかかるだろうか。
サーマルリレーは三菱電機のTH-KP形TH-T65KP。KPは欠相保護形を表し、動作特性は通常のTH形と同じなので無視して良い。メーカーのカタログをみると、始動時間の長さによる適用区分の表があり、始動時間が長い場合はTH-SR形(またはTH-KPSR形)飽和リアクトル付サーマルリレーを使用せよとある。以下、三菱電機 電磁開閉器 MS-T/Nシリーズ L(名)02031-F(2017年発行)より。
飽和リアクトル付サーマルリレーというのは、サーマルリレー本体(ヒーター)をバイパスするようにコイル(リアクトル)が付いていて、整定値の200%を超える電流が流れるとバイパスする電流が増え、ヒーターへの電流を制限することで、動作時限が長くなるというもの。見た感じコイルが後付けのように見えるが、あくまでサーマルリレー本体と一体の製品となっている(トップ写真を参照)。
動作特性曲線に今回のスター(橙の棒)とデルタ(赤の棒)の平均電流・時間を重ねてみる。
対数グラフなので分かりにくいが、左のTH形のグラフではスター始動だけで42Aコールドスタートの動作下限(3A×12秒くらい)に迫っている。それに比べて右のTH-SR形では、スター始動の時点でコールドスタート動作下限(3A×22秒くらい)の半分以下となっていて、ホットスタートは厳しいがコールドスタートは大丈夫そうだ。
よって、今あるサーマルリレーTH-KP形(TH-T65KP)を飽和リアクトル付サーマルリレーTH-KPSR形(TH-T65KPSR)に置き換えることで、始動電流によるサーマル動作を解消することができると考える。
なお、サーマルリレーは温度補正装置が付いているため周囲温度の影響を受けにくく、25度が5度になっても動作電流はせいぜい-2%の誤差だが、ファンの吸い込み空気が25度から5度に変化した場合のモーター軸動力は+7%となり、給気フィルターがある場合はフィルターの目詰まりが進むと軸動力も上がるので、この影響を含めて整定値を考慮する必要がある。
これをゼネコンに直してもらうと、電気工事10万、空調工事立ち会い5万、ゼネコン5万で、合計20万くらいはかかりそうだが、今回は盤の設計ミスということで瑕疵対応にて修繕してもらった。