Image: 懐メディアの中でもマイナーな『MO』

MOディスク(光磁気ディスク)は、少なくとも日本では一時期盛んに研究された分野のようだが、今となっては歴史もろとも図書館入りしたか焼却されたか、ロストテクノロジーになっている。

初代バイオハザードではMOディスクがキーアイテムとして登場する。

Image: MO disc in Resident Evil 1

有名なホラーゲームシリーズ作品として近年でも実況プレイの配信をちょくちょく見るが、比較的知られているフロッピーディスクに比べても、MOはマイナーなようだ。音楽メディアのMDと勘違いしているコメントも多い。まあ、MDはMOの技術をベースにしており、CD-RWをCDと呼ぶようなものだから、あながち間違いではないが。

私はMO末期の2000年代に入って初めて自分のMOディスクを所有し使ったが、見た目が似ている機械的なイジェクト機構を持つフロッピーディスクドライブに比べて、電気的なイジェクト機構を持つMOドライブは何だか格好良かった。しかし、その頃にはもうCD-R/RWの方がなじみ深いメディアになっていた。


MOは1970年代から研究されていたが、日本で次世代メディアとして注目されるようになったきっかけは、1980年に国際電信電話 (KDD) の今村・太田が発表した『アモルファス垂直磁化膜の光磁気ディスクへの応用』という論文のようだ。この論文は次のリンクで読むことができる。

1980年代中頃は主に通信装置の記録や放送分野などの特殊用途に使われるのみに留まったが、1987年にシャープやソニーなどによる5.25インチMOの製品化によって汎用装置としてのMOが登場する。登場時のドライブのサンプル価格は100万円以上したが、1988年から比較的低価格の民生品が登場した。

ソニーのワークステーション NEWS の外部記憶装置や、スティーブ・ジョブズが満を持して発売したNeXT Computerのメインの外部記憶媒体(キヤノンによるOEM生産)として使われた。ソニー NEWS用のMOディスクドライブ「NWP-539」は、片面297MB、両面594MBで、価格は45万円だった。

Image: MO disc for Next Computer
(ASCII 1988年12月号より、NeXT Computer用MO)

1991年にはIBMが3.5インチ128MBのMOドライブを発売した。ドライブの価格は30万円近くと決して安くなかったが、メディアは1枚6,900円と、コスパや利便性は当時のハードディスクより優れていた。しかし、個人では簡単に手が出せる価格帯ではない。それに、業務でなければそこまで大量のデータを保存するような使い方をしないだろう。

Image: IBM 3.5 MO disk

当時のASCII誌(1992年6月・7月号)にはIBM PS/55Z内蔵用の『3.5型光磁気ディスク駆動機構/A』(標準価格298,000円)を記者個人で導入したレビューが掲載されている。外付けハードディスクのように使用されたようだが、書き込み速度が遅いとか、イジェクトレバーがフロントカバーに引っかかるとか、約1か月の使用でドライブ内部の読み取りレンズにほこりが付着してアクセスエラーを起こすとか、高価だからと言って万全な製品ではなく、初期製品ゆえのトラブルがあったようだ。

Image: IBM 3.5 MO drive Image: IBM 3.5 MO drive

1992年、ソニーによって音楽メディアのMD (Mini Disk) が製品化される。

1991年から1993年にかけてDTPとマルチメディアの時代が到来し、MOドライブの価格は低下した。1993年9月時点でPCショップでの3.5インチ128MB MOドライブの販売価格は、ICM MO-3120が138,000円、エレコム EMO-1280が135,000円、コパル CS-M120Wが118,000円、メディアが1枚4,500円とある。この時点でハードディスクの価格は120MBで5万円。

Image: NEC PC-OD301FB
(Oh! PC 1993年9月15日号より、NEC PC-98ファイルスロット用オプション)

その後も価格は下がり続け、Yano report 1996年2月10日号によれば、都内量販店での3.5インチMOディスクの平均店頭価格は、1994年9月に128MBが3,400円、230MBが6,000円程度だったものが、1995年9月には128MBが1,000円、230MBが2,100円と、たった1年間で3分の1になった。この競争に追いつけないMOメーカーは赤字生産となり、統廃合されていった。

1995年、米国Iomega(アイオメガ)社が100MBの「Zip」ドライブを開発する。これに松下寿電子工業とImation、Compaq Computerが対抗して120MBのLS-120 (SuperDisk) を開発した。どちらもフロッピーディスクの後継を狙ってMOより安価なドライブとして開発され、特にZipは1万円強という安さで注目された。しかし、Zipはメディアが100MBで1,400円と、MOに比べてコスパが悪い。米国では爆発的にヒットした(そして、あっという間に廃れた)が、日本ではMOが大容量で信頼性が高いメディアとしてある程度普及していたため、これを押しのけるほどではなかった。

1990年代後半からパワーユーザーを中心にCD-Rドライブが普及し始める。等倍速から始まったCD書き込み速度がMOのデータ転送速度を上回るのは時間の問題だった。

日本記録メディア工業会による1997年のデータ用メディア需要の推定実績では、3.5インチMOが日本で1480万枚、北米で190万枚、EUで300万枚、その他で110万枚となっていた。一方、CD-Rは日本で1100万枚、北米で8000万枚、EUで7200万枚、その他で1900万枚となっていた。

2000年代初頭のMO末期はドライブがUSB 2.0バスパワー駆動で価格は3万円を切った。しかし、この頃になるとDVD-RWドライブの方が同程度の価格で、CD/DVDの読み書きができるという点で利便性が上回っている。

2000年代はLANの普及と半導体メモリの大容量化が著しく進んだ時期もである。データ交換用メディアの役割は終わりを迎えた。MOが消費者にとって手頃な価格になる頃にはCD-Rが出回り始めていたことから、世間的にはマイナーなメディアのまま終焉を迎えたことに違いない。

Image: MO Disk at Yodobashi.com


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