日本では、1986年に店頭売りパソコンシェアのトップだったNECがWindows 1.0をPC9801に移植してMS-WINDOWSとして発売した。しかし、そのライバルメーカーの富士通や日本IBMが同じようにWindowsを発売したというニュースは見たことがない。1987~88年のWindows 2.0が出てから各社が動き出したところだ。
1984年か85年の見本市(マイクロコンピュータショウかビジネスシヨウ)においてIBM 5550上でWindowsを動かしている写真を記事で見たことがあるが、どの刊号だったか覚えていないし、本当に5550だったかどうかも記憶が定かじゃなくなりつつある。
1985年7月末にアスキー(当時の日本におけるMicrosoftの総代理店)が雑誌に出している広告では、PC-KD551と見られるCRTモニター(形名ラベルが影で上手く隠れている)に開発中のWindows 1.0の画面が映し出されている。この時点でPC9801で日本語版の開発が進められていた可能性が高い。

(日経コンピュータ 1985年8月5日号31頁より)
この広告をまじまじ見ていて今気付いたが、WINPLAN.MPというウインドウタイトルの見たことない表計算ソフトが動いていて興味深い。ウェブを調べてみると、1985年のフランスの雑誌 (Science et Vie Micro No.20) に掲載された写真の中に “Windows Plan” という名前のアプリが見える。MS-DOS用表計算ソフト Multiplan のWindows版と予想されるが、これは正式にリリースされていないらしい。これと画面構成が似ていてメニューも翻訳したものと一致するから、同じアプリとみて間違いない。
それはさておき、日本ではWindows 1.0はPC9801以外に移植されていないのか探してみたところ、あるにはあった。しかし、それはパソコンではない。
IWP (Integrated Work Processor)
1985年5月に松下電器産業、松下電送、松下技研、松下電子工業の松下グループ4社による共同開発として発表された IWP (Integrated Work Processor) というワークステーションで、OSにMS-DOS、拡張ソフトにMS-WINDOWSを採用したとある。これはワープロ、パソコン、ファックス、コピー機を統合したDTPのようなシステムで、価格は150万~250万円予定とされていた。
このシステムではビットマップイメージを大容量のウィンドウメモリーに展開して拡大縮小回転といった画像処理はそこで行い、ウィンドウ表示の結果をフレームメモリーへ転送し、マウスカーソルと重ね合わせていた。これを活用する、Windows上で動作する統合化複合文書プログラム (ICDP) というアプリが用意された。

(『事務と経営』1986年1月号より)
現状、このマシンについて言及したWebの文献は日本印刷技術協会:DTPの過去・現在・未来 その2が唯一となっている。この記事ではリコーのRINNETというシステムが並記されているが、これとWindowsの関連を示す文献は見つけられなかった。
IWPはOEMで販売される予定だったが、このままの製品化には至らなかった。その代わり、1986年4月にこのシステムを応用した Panafile 10 が発表された。
Panafile 10
Panafile(パナファイル) 10は紙文書をデータ化して1.45GBの光ディスク(直径20cmカートリッジ型)に記録するというシステムで、同時期に様々なメーカーが「光ディスクファイルシステム」として売り出していたマシンの一種だった。CPUは80186 8MHz、主記憶512KB、ウィンドウメモリ6MB。3.5インチのFDDとHDDを1台ずつ搭載し、光ディスク装置、スキャナ、プリンタ、17インチ縦置きCRTディスプレイ、キーボード、マウスが付属する。OSはMS-DOS 3.1、マルチウィンドウ用ソフトウェアとしてMicrosoft Windowsを採用。ソフトウェアを含むシステム価格は455万円、光ディスク媒体は1枚35,000円で、A4文書を25,000枚記録できるというものだった。ここでいう光ディスクは形状から明らかなように、CD-Rではないが、CD-Rが一般に流通する10年前から追記型光ディスクが(業務用ではあるが)存在したことは興味深い。

(財政金融ジャーナル 1986年10月号より)
この広告に “Windows” の単語は一つもない。WindowsマシンというよりWindowsの技術を組み込んだ業務システムとみるべきだろう。この高価なシステムは、しかし、当時の同類のシステムの中では手頃な価格だったようで、1987年末までに1000台近くが販売された。
日立 B16/EXⅡ
『‘86 ビジネスマシンダイジェスト』というOA機器カタログ誌の中で、日立 B16/EXⅡというパソコンのニュースリリースに「MS-NETWORKSとMS-WINDOWSをサポート」とあったが、その後の文献ではMS-Networksの存在は確認できるものの、Windowsについては確認できていない。
Windows 1.0はGEMなどの他のウィンドウシステムに比べて完成度が低く、サードパーティーからそっぽを向かれたのだろうか。当時のレビュアーが心の内を語っている。
→ Windows 1.0日本語版のレビュー記事を書いた話:立ちどまるよふりむくよ(2/2 ページ) - ITmedia NEWS
参考資料
- Mythical GUI Vaporware – Windows 1.0x – GUI Wonderland
- 松下電送㈱ 小町祐史「インテグレーテッドワークプロセッサによる統合文書処理」『事務と経営』1986年1月号、30-33頁。
- 『‘86 ビジネスマシンダイジェスト』、日本経営協会、1986年5月20日。
- 「電材ミニコン」『電子材料』1988年1月号、16頁。「同社ではパーソナルユースのデスクタイプ Panafile 10 を86年に発売し、すでに1,000台弱を販売」
トップの画像は 『ASCII』1986年12月号133頁より。