NEC FD1155Dのテストピンと健全性チェック
FDDについては私より詳しいギークがわんさかいるので、あまり書きたくないんですよね。私が恥さらしになるのが目に見えているので。私はこの1台しか5.25インチFDDを持っていませんので、このFDDについてしか調べていません。ここで使用しているNEC FD1155Dは、10年前にハードディスクが故障したPC-9801VXから取り出してIBM互換機に転用しているものです。
5.25インチFDDはもともと数万円したとあって修理のことまで考えられていて、調整の余地があります。読めなくなったからって捨てるなんて勿体ない。逆に、3.5インチFDDは高密度化とコストダウンの影響で構造が単純化されていて、調整の余地があまりない。末期には新品が5000円以下で売られていましたから、不調になったものは修理に出すより丸ごと交換した方が時短で安上がりですからね。
FDDの調整には基準ディスク(アライメントディスク)という特殊な信号が書き込まれた校正用ディスクが必要です。当然ながら、通常手に入るものではありませんし、仮にあったとしても製造から10年以上経過したディスクは信頼性が低下しているでしょう。私も持っていませんので、この記事ではここを見れば調整の余地があるんじゃないか、という程度の話になります。他の必要なメンテナンス(潤滑とコンデンサの交換)についてはここでは省きます。
FD1155Dの外観
FD1155Dは製造時期によって外観・構造がかなり異なります。このロットではディスクイン・センサーは光学式のものが使われていますが、後期ロットはマイクロスイッチで検出するようになっています。
ステップモーターは読み書きの信頼性に直接的な影響を及ぼすので、絶対に動かしてはいけません。位置を調整するにはCEディスクという基準ディスクが必要です。
0トラック・センサーはヘッドキャリッジ側に斜めに切られた板が付いていて、これがセンサーの間を遮ることでトラック0の位置を検出します。従って、0トラック・センサー本体を横方向(写真では縦)に動かすことで、ディスク縦方向の位置を調整していることになります。ただし、ロットによってはセンサー本体を縦方向に動かせるものもあります。
ディスクのインデックスホールを検出するセンサーです。3.5インチFDDではディスクのキャッチングホールで位置が決まるので、このセンサーは存在しません。
テストピンのピン配列
- TP1, TP2 : ヘッド読み出し電圧 (V OUT) 微分後?
- TP5 : インデックス・センサー出力 (-INDEX)
- TP6 : トラック0・センサー出力 (-TRACK00)
- TP7 : データ・セパレーター入力 (RDIN of uPD71065G)
- TP10 : データ・セパレーター出力 (RDOUT of uPD71065G)
他は分かりません!
テストピンを利用したチェック項目
以下はテストピンを使用して調整する項目です。逆に、調整できるということは、潤滑やクリーニングのために迂闊に部品を動かしてしまうと再度調整する必要があるということです。
- ディスク回転速度
- インデックス・センサー
- 0トラック・センサー
- ヘッド位置(ステップモーター)
問題は調整方法と基準値なのですが、私はFD1155Dのドキュメントを持っていません。ここではネット上で入手可能なTEAC FD55-GVと松下通信工業JU-475のサービスマニュアルを参考にしています。
チェック方法
テストピンを当たるときは2チャネルのオシロスコープを使います。今回はHANMATEK HO52を使っています。Amazonで15,000円くらいで買えて、場所を取らないので選びました。ただ、デスクタイプのものと違ってトリガー入力が単独で付いていません。CEディスクでヘッド位置を調整するなら、最低でもトリガー入力付きの2チャネルのものが必要です。
ディスク回転速度
ここで挙げている中ではオシロ無しにチェックできる唯一の項目です。
初期のFDDには可変抵抗やバリコンを通して基準周波数を生成してディスクの回転速度を調整するものがありました。ただ、この制御方法は温度などの使用環境の影響を受けやすいということでPLL方式に置き換えられました。FD1155Dも速度を調整するような機構は無さそうです。そのため、健全性のチェックのみになります。
ディスクの回転速度を調べるユーティリティーは有償・無償含めて色々ありますが。今回はフリーウェアのImageDisk (IMD) を使います。
→ DAVES OLD COMPUTERS - Disk/Software Image Archive
DOS上で実行すると最初にメインメニューの説明が出るので、ESCキーでメインメニュー画面に進みます。
Rキーを押して Test RPM を選びます。適当なディスクを挿入したらEnterキーを押します。インデックスの検出回数を時間で割っているため、最初は数字がばらつきますが、正常なら30秒ほどすれば360 RPMで安定するはずです。
テストピンで調べる場合はTP5 (-INDEX)を当たります。次の画像では6.010 Hzなので360.6 RPMです。TEAC FD-55GVの基準では±1.5%のようですから、356から364の間であれば合格です。
インデックス・センサー
インデックス・センサーを調整するにはインデックス・バーストが記録された基準ディスクが必要です。TP5 (-INDEX)をトリガーにしてTP1 (V_OUT)を当たり、バースト信号が規定時間内に検出されるか確認します。JU-475では208±125 μs、FD-55GVでは165±165 μsとなっています。これは基準ディスクによって多少違うかもしれません。ここでは省略します。
0トラック・センサー
トリガーにシーク制御の信号を使用しますが、どうもテストピンには出ていないっぽい?今回はFDDケーブルに未接続の端子から20番ピン (-STEP) にゼムクリップを繋いで信号を取り出しています(何て行儀悪い!)。テストピンはTP6 (-TRACK00)を当たります。
ImageDiskのメインメニューからAキー (Alignment/test)を押します。このモードはキーを押し間違えるとディスクのデータが消えるので注意して下さい。
Bキーでビープ音を消しておきます。0キーでトラック0にシークし、+キーで1ステップずつトラックを移動します。私の環境では、トラック0と1で0 V、トラック2で0.7 V、トラック3以降で4.2 Vになりました。FD55-GVのメンテナンスマニュアルでは、トラック0でアクティブ (4.0 V以上)、トラック4でインアクティブ (0.5 V以下) になると書かれています。FD1155Dと極性が逆ですね。
次に、オシロは-STEPの立ち下がりをトリガーにしてNormalモードにしておきます。トラック3の状態から0キーを押してトラック0に移動し、-TRACK00信号が0になるまでの時間を計測します。JU-475では5.9 ms以内にVcc電圧の60 %になることとされていますが、波形のサンプルを見るにFD1155Dとは極性が逆かもしれません。となると、FD1155DではVcc電圧が40 %になるまでの時間を計ることになります。下の画像では5.2 msくらいでしょうか。-TRACK00信号が下がった後に一度だけ上がるタイミングがありますが、これが2.0 Vを超えていないことを確認します。
5.25インチHDドライブ (96 TPI) の場合、トラック・ピッチ(トラック間の幅)は0.265 mm、トラック幅(データの記録幅)は0.155 mmです。極細のボールペンが0.3 mmですから、位置調整にそれくらいの精度が要求されるということです。
ヘッド位置(ステップモーター)
これを調整するにはCE (Cat’s Eye) ディスクという基準ディスクが必要です。これはディスクの中心から少しずれた位置を中心とし、中間あたりのトラックに同心円状に並走する2本のアナログ信号を記録したものです。オシロをINDEXと同期させてヘッドの2出力を当たると、トラックとのずれがなければ左右対称な∞が表れます。トラックのずれがあると左右で振幅の大きさにずれが生じます。ヘッド位置を調整したら、0トラック・センサーも調整する必要があります。
次の画像は通常のフォーマット済みのデータディスクを使用してTP1, TP2に当たったときの波形です。CEディスク使用時はオシロの掃引時間をミリ秒単位に設定しますが、データディスクではぐちゃっとした波形が出るだけで意味がありません。ここでできることは、マイクロ秒単位に設定してデータの波形が見える程度のことです。
参考文献
- retrocmp / retro computing https://retrocmp.de/index.htm
- Panasonic JU-475-4 Flexible Disk Storage Drive Service Manual, Matsushita Communication Industrial.
- TEAC FD-55AV ~ GV Mini Flexible Disk Drive Maintenance Manual, TEAC, 1985.
- 高橋 昇司『フロッピ・ディスク装置のすべて』, CQ出版, 1989年.