210913 VN『夏空のペルセウス』(2012年) 感想
昨年購入して放置していた『まいてつ Last Run!!』をプレイしていたのだけど、なるほどこれは文句なしの名作ですね。シナリオのセンスと作り込みが半端ない。夏ペルとは方向性が違うので単純比較できないが、私がここ1年でプレイした少数の作品の中で、夏ペルに演出賞を付けるなら、まいてつはシステム賞とシナリオ賞と大賞でしょうね。CG賞はどちらも甲乙付けがたい。それ以外の作品は何をプレイしたのか、過去のブログを見返さないと思い出せないくらいにこれらの強烈な印象で塗り替えられてしまった。これを書いている今、たった読み終えたところと言うのもあるのだけど、サマポケに劣らない充足感で、心がすごく温かいです。
しかし、とりあえず気持ちをリセットしてこちらを振り返ってみる。
ビジュアルノベル『夏空のペルセウス』(minori / 2012年)の感想。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。
パッケージ
豪華特装版は25cm径のピザが余裕で入りそうな縦横大きな正方形で若干薄いパッケージと、表紙のひまわりを背景に草原に座っている恋(れん)の大きなイラストが目に付く。中身はゲームディスク1枚、ボーカルCD1枚、サントラCD1枚、見開き1枚のマニュアル、原画や開発陣のコメントが入った特典冊子。単に内容物を収めるためなら箱は通常の形状で十分であって、わざわざこのような大きさにしたのは、箱自体が一つのグッズであり作品なんだろう。
シナリオ
テキスト自体の分量は少ないと思うが、各文とその行間の密度が濃い。グラフィックの演出が細かいので一つ一つを見てしまうし、テキストもひたすら読めばすっと入ってくると言うよりは、会話劇でのそれぞれの言葉の意図や思考に思い巡らせながらゆっくり読んでいくのが、一つの楽しみ方になる。ラノベもビジュアルノベルも、普通は読んだ内容がそのまま理解に繋がる書き方が万人に受けると思うので、この書き方は他の作品にあまりない特徴だ。もちろん、作品の題材と噛み合うからこそこんな書き方ができる。
会話や行動の駆け引きが面白い。自分に裏表や隠し事があるのは、相手だって同じ。相手に伝えたくない本意が態度で伝わってしまうこともあれば、話さないと伝えたくても伝わらない本意もある。すれ違いを乗り越えた先に、本当にわかり合える瞬間がある。
ストーリーの筋書き自体はそれほど練り込んでひねったものではないが、意外に現実味ある展開だった。恐怖を知らない人の末路、村の過疎対策に向けて取り組むことといった、現実だったらこうだろうけど、という解がそのまま出てきて生々しい。恋ルートと遙香ルートのエンディングは、他と比べると消化不良な感じがして気分良くない。
グラフィック
画面解像度はHD (1280x720)。立ち絵での目の瞬きや横並びで歩くときのアニメーションがある。最近の作品に比べると、瞬きが若干コマ送りのスローモーションのように見える。そういう技術的な古さは感じるが、それでも瞬きや口パクのアニメーションと表情変化の組み合わせに加え、後述する背景との調和によって、表現力は単なる「パネル劇」とは一線を画している。
立ち絵の使い方が独特だと感じた。普通、立ち絵の位置はそのキャラクターが話していることを示す以上の意味を持たない。1人なら中央、2人なら左右、3人なら左・中・右、あるいは2人と1人で左右に離してグループを分けたり。1対1の告白やキスシーンは例外として、立ち絵は仕草や表情に意味があるものの、配置に演出上の意味はなかった。
本作品では主人公からの視点(主観目線)というところに重きを置いている。立ち絵にはキャラクターが横向きのパターンがあり、画面右に左向きの立ち絵 (A) を大きく、画面中央に正面向きの別キャラクターの立ち絵 (B) を小さめに配置する。これで、主人公とAがペアでBに話しかけているように見える。
立ち絵や背景をぼかして遠近を表現するというのも、この作品では珍しくない。立ち絵が背景から浮かないよう、光や影、色調を時間変化に合わせて調整するのにどれほど手が込んでいるのだろう。どのシーンを切り抜いても1枚絵になり得る。パッケージの絵はゲームCGをそのまま抜き出したんじゃないかと錯覚する。パッケージ表紙と同等のクオリティがゲーム上の日常シーンで当然のように演出されていると思うと、恐ろしくクオリティが高い。
Hシーンはヒロインの体形が巨乳に偏っている。作中談によればその4人の中でも大小あるらしいが、正直分からん。クオリティは通常シーンからバラツキなく良好。恋の各シーンの表情をシナリオと関連付けて見比べてみると、心情変化がよくわかる。細かい作り込みだが、そうして見てみるとCGとシナリオが一体になっていると分かる。
システム
セーブスロット10個×8ページ、オートセーブ10個、クイックセーブ10個、セーブ編集機能なし、バックログジャンプなし。設定項目は少なめ。インターフェイスのデザインはおしゃれだが、クリックに対するレスポンスがないなど使いにくい。ログは上下キーかマウスホイールでテキストウィンドウ内のみで切り替わって遡るため、テキストをざっと見返すには向いていない。ただ、遡って読んでいるテキストに合わせてその時のCGや演出も再生される点は独特だ。ゲーム中は画面右下にカーソルを持ってくると各メニューが表示されるようになっていて、普段はテキストウィンドウのみ表示される。作品に没頭させるための配慮は良かった。(2021/09/13完了、No.92)