PS/55モデル5550-S,T ステージⅠとステージⅡの違いを解明する
私が実際に見たことがあるのはモデル5550-TのステージⅡだけで、両者を比較したことはなく、今や手元に実物があるわけでもないのだが、残っている文献を頼りに情報を整理すれば何かが見えてくるのでは、と思って調べてみた。
オーム社が一般書籍として発行していたモデル5550-S,T,Vの技術解説書によれば、
モデル5550には、6種類のシステム・ボードがあります。この6つのシステム・ボードの主な相違点は、システム・クロックの速度、部品配置、ハード・ディスクの種類です。
とあり、BIOS INT 15h:AH=C0hで以下のように識別できると説明されている。
モデル | サブモデル | 改訂レベル | システムボードの種類 |
---|---|---|---|
F8 | 0A | 01 | ステージⅠ 5551-S09 |
F8 | 07 | 02 | ステージⅠ 5551-T0A/T0B |
F8 | 07 | 03 | ステージⅠ 5551-T09 |
F8 | 0A | 02 | ステージⅡ 5551-S09/S0A |
F8 | 07 | 04 | ステージⅡ 5551-T09/T0A/T0B |
F8 | 10 | 00 | 5551-V0A/V0B |
まず、この表を見るだけで、いくつか気になる点が出てくる。
モデル5550-V (25MHzモデル; 1989年5月発表)のシステムボードが1種類しかないのは、モデル5550-S,T(1988年4月発表)より後に発売され、ステージⅡ相当の改良(あるいは不具合修正)が既に施されているためと考えられるだろう。後にS1, T1, V1, V2モデルも登場するが、この本では一切述べられていないので、それらが発売される前の時点の記述と考えられる。
妙なことに、モデル5550-TステージⅠのシステム・ボードが2種類ある。モデルT09, T0A, T0Bの違いは内蔵ハードディスクの容量で、それぞれ30MB, 60MB, 120MBとなっている。ここでふと気付くのは、先の技術解説書の文章にあった「ハード・ディスクの種類」という部分だ。30MBモデルと、60MB、120MBモデルではハードディスクの仕様に「何らかの」明確な違いがあったのだろう。
部品配置の違い
部品配置の違いについてはSandy氏のModel_5550のページが詳しい。そもそも基板の形状からして違うことが分かる。増設用メモリ(2MBシステム・ボード記憶拡張キットⅡ/Ⅲまたは4MBシステム・ボード記憶拡張キットⅡ)を装着するスロットは増設用ディスケットドライブを装着する空間の真下にあり、ステージⅠの場合は増設ドライブを外す必要があるが、ステージⅡの場合はスロットの部分だけサブカードとして独立しているので、ケースを外せば前面から交換できる。確かに作業性は少し改善しているが、特筆するほどの違いかというと微妙。
内部的な違いは技術解説書のタイプ別の記述を比較すると見えてくる。
システムボード POS レジスターの違い
ステージⅠではI/Oポート103h(システム・ボードPOSレジスター3)からスロット毎のメモリー装着の有無や容量(2MBと4MBの2種類しかないが)はビット単位のフラグで識別することができる。ステージⅡではフラグではなく、スロット毎に装着されたメモリーの識別値(ID)を読み出せるようになっており、IDから容量を識別することができる。
パリティエラーリセットの有無
ステージⅠではI/OポートE1h(メモリー・エンコーディング・レジスター1)でシステム・ボード・メモリーのパリティー検査を有効・無効にしてパリティ・エラーをリセットするビットが用意されているが、ステージⅡでは予約ビットとなっている。
システムボードROM構成の違い
システム・ボードROMの構成がステージⅠ(V0を含む)は128KB×16ビット、ステージⅡは128KB×8ビットとなっているが、容量はどちらも128KBと読めるような表現になっている。もし同じ容量なら、ステージⅠは64Kワード×16ビット、ステージⅡは128Kワード×8ビットの間違いか?
ハードディスクの種類
モデル5550-S,T,Vの技術解説書にはハードディスクに関する記述は一切ない。ディスケットとハードディスクは外部オプションとして「その技術解説書は独立しています」とされているが、具体的な資料名称は不明。
何年か前にPS/55の技術変更 (Engineering Change; EC)の情報を見つけた。私も噂レベルでしか知らないが一応解説しておくと、IBMの言う「技術変更」とは、既存製品の新技術や不具合への対応を無償で行い、必要とする顧客に提供することを言う。年間*万円の保守契約に入っていれば無償でサービスを受けられるが、入っていない場合はIBM技術員の派遣費用と部品代の負担が必要。もっとも、システム・ボードの交換だと部品代だけで10万円を超える場合があり、1回の技術変更を受けるだけで年間保守契約料金の元が取れることもあるとか。交換で外した部品は原則回収される(再利用されるのだろうか?)。
5550-S/T/Vのリストは既に以前上げているとおり。
→ IBM PS/55 5550-S/T/VのEC(技術変更)リスト - Diary on wind
それで、EC番号D18009(1993年4月より有効)によれば、モデル5550-S,Tのハードディスク30MBモデルのみ対象でST-506のハードディスクをESDIのハードディスクに交換。さらに、ステージⅠの場合はシステムROMの交換が必要とある。
この情報から、ステージⅠの30MBモデルは元々ST-506のハードディスクしか使えず、ステージⅡで新たにESDIのハードディスクへ対応したと推測できる。あるいは、上の識別表の情報と合わせると、ステージⅠは搭載するハードディスクがST-506 (30MB) かESDI (60MB, 120MB) かでシステム・ボードを使い分けていたのが、ステージⅡでは1枚で両方に対応できるようになったのかもしれない。
現在のPCの常識を考えるとシステム・ボードは交換しなくていいのか、と疑問に思うかもしれないが、モデル5550-S,Tのハードディスクはコントローラーが一体の「アダプター」なので、ハードウェア的には一つのMicroChannelアダプターとして独立しているから問題ないものと考えられる。
バスマスターの不具合修正は関係するか?
EC番号D22612(1993年5月より有効)によれば、以下のバスマスタ・アダプターを使用するとハングアップする不具合があり、ECの対象になった。
- MicroChannel SCSIアダプター/A
- インテリジェント通信アダプター/Aポートマスター
- ニューメリック・プロセッシング・アダプター
- 日本語音声認識・合成アダプター/A
- 80MBハードディスク内蔵SCSIアダプター/A
- トークンリング・ネットワーク 16⁄4 アダプター/A
ステージⅠ・ステージⅡともにEC対象となっており、ステージⅠなら同じステージⅠで別P/Nのシステムボードと交換することになっている。よって、バスマスターの不具合は関係ないと予想できる。
1990年2月当初のEC# C27278ではステージⅠのS/Nのみが対象となっており、そこからステージⅠはバスマスターの不具合あり、ステージⅡは改善されたものと誤って認識されたのではないかと考えられる。
電源スイッチレバーの色
EC番号D18009によれば、ステージⅠは電源スイッチレバーの色が赤、ステージⅡは電源スイッチレバーの色が白と記載されている。
上記Sandy氏の情報では白レバーのステージⅠが存在することになっているが、これがバスマスターの不具合と誤って関連付けられたものだとすれば、白レバーの当該S/Nはバスマスターの不具合があるステージⅡということになり、赤レバー=ステージⅠ、白レバー=ステージⅡという判別方法は矛盾しない。
1993年にEC(マザーボード無償交換)って本当?
PS/55モデル5550-S,Tの発売は1988年4月。それから5年も経った1993年にECでシステム・ボード(いわゆるマザーボード)の無償交換とは、現在のパソコン業界の常識からするとかけ離れていて、実際にあったのか信じがたい
しかし、手元にあったときに撮影した5551-T09ステージⅡ末期のボード(P/N 54G1612 EC# D17997)の写真を見ると、National Semiconductorのチップに印字されているDate Codeがこちらの解釈通りなら、このシステムボードは1997年(!)以降に製造されたことになる(※NECのロゴが新ロゴなので、さすがに1987年の間違いではない)。