Image: 1977年に配電盤の標準色7.5BG6/1.5(青灰色)が廃止された経緯

※この記事は興味本位から調べて書いたものであり、恐らく正確性を欠いています。

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配電盤・制御盤の標準色は日本電機工業会(JEMA)のJEM 1135『配電盤・制御盤及びその取付器具の色彩』を根拠とするケースが多い。この規格では1977年(昭和52年)の改正でマンセル値7.5BG6/1.5(ブルーグレー)から5Y7/1(ベージュ)に変更された。その概要については以前述べたとおりだが、1958年(昭和33年)初版制定以来20年続いていた規格が改正に至った経緯をもう少し調べてみた。

JEM 1135制定(1958年)前の塗装色

標準色が決まる前は各社・各団体で様々な標準色が存在した。それが何色だったかについては資料4に書かれている。

  • 第1期(1946以前):材質色(ベークライト、大理石)、黒―黒の時代
  • 第2期(1947~1957):暗灰、暗青、明緑、明黄緑―明暗色の時代
  • 第3期(1958~現在):青緑、緑、黄緑―緑の時代
  • 第4期(1970~現在~):淡黄緑、淡黄、淡茶―淡色の時代

盤面の材料が初期は木製、その後は戦時まで絶縁性や耐火性(当時はナイフスイッチなど露出形開閉器が多用されていた)の理由から、なんと大理石が使われていたようだ。

配電盤の材料で最も多く用ひられておるのは大理石盤であつて、その多くは黑色艶消塗料を施してある。次ぎに使用されるものは鋼板製配電盤であつて、大理石に比し輕量である點と破損し難いといふ點で最近賞用されて居る。此の外エボニーアスベスタス及びベークライト板の如き、絶緣板も用ひる場合もある。(資料2)

黒は無機質で高級感が感じられる機械・家電の色として現在に至るまで長らく使われている。当時は機械や建物の大半に伝統的な黒色が使われていた。戦中、工場における色と作業効率の関係について述べた記事があり、黒一色の見直しが提起されている。(資料5)

戦後、特に1950年代に入ってから「色彩」の研究や産業分野への応用が盛んになる。この頃は作業部とそれ以外が反対色であることが重視されたことに加え、工場や機械などの作業場で緑系の色が多用された。

壁色に対する要求は次の通りである。

  1. 感じよく明るい色なること。
  2. 眼を安めるに有効な色なること。(中略)
  3. 成るべく後退色なること。壁は作業者の注意を引く必要なく、寧ろ後退して作業場を廣く感じさせる方が有効である。後退色としては靑―綠が選ばれよう。

かくして焦点色にアイボリー、バフ等を使う時には壁色にうす綠又はうすい靑綠が好ましく、前者に綠色相を使う時には桃、アイボリー、地色(Beige)等(これらは後退色ではないが)好ましい。(資料3)

中には富士電機など戦前から盤の塗装色に緑色を使用していたメーカーもある。

7.5BG6/1.5(青灰色)がJEM標準色になった理由

かつて7.5BG6/1.5が標準色になった理由は、1953年(昭和28年)に鉄道電化協会が発表した「変電所色彩調節の研究」での検討結果が大きな影響を与えたと考えられる。この報告書「変電所の色彩調節」は当時500円で少数頒布されていたようで、閲覧・入手は難しそうだが、その後の同書やJEM 1135について言及した文献を読んだ限りでは次のような検討過程があったと見られる。

配電盤の表面は、使用目的からいってなるべく落ち着いた気分を出すため青みがかった青緑7.5BGを採用した。明度は汚れやすくない範囲でなるべく明るい6とした。また彩度は上品な落ち着いた気分を出すためあまり大とせず、一方陰気な感じを避けて1.5としている。(資料1)

JEM標準色の改正が検討された経緯

前に書いた記事では述べていない、というか知らなかったが、JEM 1135の当初の規格では盤の表と裏で規定色が違ったようだ。その内容は次のようになっている。(資料1)

色彩を施す場所 色彩(マンセル記号)
配電盤の表面および外周被覆部 7.5BG6/1.5
屋内用閉鎖配電盤の外周 同上
屋外用閉鎖配電盤の外周 N7/0
配電盤の裏面 2.5Y8/2
閉鎖配電盤の内部 同上
計器、継電器の縁枠 7.5BG4/1.5
盤取付器具の盤面に現れる部分 同上
盤に取り付けられる開閉器、操作器等のトッテ 7.5BG3/3.5
非常停止用開閉器、操作部等のトッテ 5R4/13
盤の表面に取付けられる銘板 銀梨地に黒文字
模擬母線 (JEM1136配電盤の金属模擬母線参照)

配電盤の裏面は2.5Y8/2となっている。これは奇しくも現行で5Y7/1とならんで広く使われている2.5Y9/1(クリーム色)に近い。これは1968年の改正で表面・外装と同様の7.5BG6/1.5に統一された。

従来色の不都合については、メーカ内部の主として製造技術・生産管理部門からも指摘が寄せられた。作業性にからむ、盤内・外部塗装色が同一にならない点の指摘が、特に目立った。

規格では1968年改正以来、同一色彩の適用がうたわれている。が、実体は比率で30%に満たない(内面のみ、又は外面のみJEM色塗20%、残りはほぼ同様な比率でユーザ指定色)。内外面異色というのは、他の製品にはあまり見かけない現象であるが、盤では保守点検の際、作業者が内部に潜る関係上、明るい色彩がよいという理由から、メーカの期待とユーザーの主張にいささかのギャップがあった。ところが、この比率(30%)が上がらないと生産性は至って低いことが指摘された。周知の通り現在の塗装ラインは何等かの形で自動化ないし半自動化されている。塗色を塗り分けるには、マスキング処置をして、別色を塗装することになるが、塗面積、工数ともに2~3倍アップする。下塗りが従来色程度の明るさであると、より明るい内部色彩を上塗りするには更に1~2回の重ね塗りを要す。いずれにしても生産性・省材の面で著しいマイナスである。(資料4)

しかし、実際には依然200色以上の色が使われていたようだ。これが1973年に起きたオイルショックの影響を受け、材料調達の合理化や省資源化が進められたことで100色程度に集約された。それでも標準色を差し置いてそれだけの色が使われていた状況から、JEMAの配電盤技術委員会で見直しが検討された結果、1974年6月に「配電盤標準色技術専門委員会」が立ち上がり、約2年半にわたって新標準色が検討された。

メーカーで従来使われていた色は様々あって集約するのは難しいと考えられた。そこで、製造技術者だけでなくデザイナーの意見を取り入れ、社会や技術面の変化を反映させている。

計装方式も操作主体から監視系へと移行すること、これを納める施設もより快適な環境へと高級化すること、単純な生理・感覚対応から心理情緒面への反応へと重点が移行すること―例えば、盤色が、単に視覚的疲労が少ないとか、鎮静化であるとかあるいは汚れにくいとかの低い次元から、環境と調和している、快適である、センスがある等の心理・情緒面にわたる高度な次元まで配慮が求められるようになる。(資料4)

この時代背景として、昭和40年代から50年代(1970年前後)にかけて発変電所の無人化が急速に進んでいる。かつて運転員が常駐していた場所は保守点検時のみ作業員が立ち入る場所となり、色相の選定理由となっている「使用目的からいってなるべく落ち着いた気分を出す」はそれほど重要ではなくなった。また、工場やビルなど民間施設の大型化で需要構造が変化し、施設全体として美観が求められる傾向が高まった。

他方、流行としては資料1の「自動車の色彩」で並べてあげられている「JAFCA車体色調査色相別経年変化」を見ると、1970年代後半から白系が圧倒的に多くなっていることが分かる。

1980年代にはいると、ホワイト系が圧倒的に多く、赤、黒系も若干のびている。ホワイト系には清潔感、高級感が感じられ、消費者の生活に高級志向が目立ち始めたことによる変化ととらえることができる。(資料1)

最後に、新色彩(5Y7/1)の採用と将来について次のように書かれている。

今回採択された新色彩は、平凡な色彩ではあるが、この任に十分答え得る色彩と考えており、素朴な感慨として、ありふれて、万年流行色とも思える空虚さが、かえって従来色以上の耐用を示すのではないかと予測している。従来色のある意味での非凡さを、新色彩の平凡さで置き換えることは、現在及び、これからの多様な局面との整合を考えると、まず不可能であろう。(資料4)

参考資料

以下すべて国立国会図書館デジタルライブラリーで閲覧可能。

  1. 菊池 安行 “色と快適性”, 塗装工学 = Journal of Japan Coating Technology Association, 27(9), p.398-405, 日本塗装技術協会, 1992年
  2. “電氣機器仕樣書の書き方”, p.138, 明電舎, 1936年
  3. 東 堯, “工場における色彩”, 生産と技術 = Manufacturing & technology, 4(3), p.23 , 生産技術振興協会, 1952年
  4. 森谷 熙, “改訂された配電盤・制御盤の標準色”, 電機, (348), p.32-40, 日本電機工業会, 1977年
  5. “工場内の色と仕事の効率”, 工業評論 23(8), p.37-38, 工業評論社, 1937年

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